水道技術経営情報
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情報発信と説明責任 Announce and Accountability

 情報発信に関する細目は,政策評価の動きなどを中心に広がりを見せています。ここではこれらの活動を整理したいと思います。


情報発信と説明責任

(1)情報発信

 水道事業体自身が情報の発信と配信を担当することは,今後ますます重要かつ容易になると思われます。メディアとしては,リーフレットの配布や精算伝票への添付,自治体広報への掲載,掲示板などがあります。政令指定都市クラス(たとえば東京都水道局)であれば,定期的に広報用のリーフレットを作成,配布しています。

 また,最近ではインターネットを利用した広報も確立しつつあります。すでにほとんどの事業体がホームページを開設しています。

 発信の場合は,なるべく双方向で情報を収集できるシステムを付加していることが望ましく,需要者との情報のやりとりが信頼の醸成に大きく寄与するものと考えられます。たとえば,ゲーム類をしつらえるなどの方法もあろうかと思います。PR関連のアイデアはこちらに移動しました。水道のPR,啓発活動やセミナーの開催については今後,重要なコンサルタントの業務になるはずですので,研究してみましょう。

(2)顧客情報の収集

 国の施策については,パブリックコメント(PC)という制度があり,新たなルールを作るにあたって,審議会などの答申を得た意見について,国民に開示して意見を募る制度があります。地方自治体でも一部にはこのような動きがあるようです。米国などでは盛んで,意見も多数集まりそれを反映したルールづくりが行われている様子がわかります。

 ルールができあがってから異論を唱えたり,モラトリアムを決め込んだりするよりは,ルールの策定に積極参加する方が有効かつ正しいと思われますが,我が国ではあまり有効に活用されているように見えません。そもそもパブリックコメントという制度が知られていないこと,事情通と規制当局者との力関係が明確であるために迂闊な意見を出せないこと,などが原因と思われます。このあたりは,「住民との対話」を標榜して当選する首長さんも出てきているので,除々に改善されるかもしれません。

 また,顧客からの電話については,当然,すべて記録を取ります。部分別のクレームの多寡の情報には,業務の効率化に直結する情報が詰まっています。たまに単なる言いがかりとしか言いようのないクレームもありますが...

(3)リスクコミュニケーション

1)リスクコミュニケーションとは

 リスクコミュニケーションとは,リスクに関する情報を発信し,また情報の収集換を行う行為を通じ,そのリスクにかかわるステークホルダーの間での意思疎通の確立を目指そうとする行為をいいます。

 主として事件・事故があった場合に記者会見などの方法で報道機関の協力を得,その詳細を公表する方法です。報道による広報には,「安全のための広報」,すなわち,顧客や従業員の安全を確保し,被害を最小限に食い止めるための報道と,「安心や社会的信頼性のための広報」,すなわち,誤解や不安感を与えないための広報です。前者では迅速性が,後者では信頼性が要求されます。

2)一般的注意点

 リスクコミュニケーションにあたっての重要な注意点は以下のとおりです。

  • 送り手からの情報を信頼のある形で発信する。(中立な第三者など)
  • 受け手にバイアスがかかることを認識した広報を行う
  • 分かりやすい表現に徹する
  • リスクの種類に適当な媒体を利用する。

 特に犯しやすい間違いとして,情報の解釈の相違が信頼を崩すケースが多いことが挙げられます。情報の送り手が中立な第三者でないのに,みだりに「問題ない」との広報を繰り返すことで,逆効果をもたらす例が後を絶ちません。事実及び対応状況を客観的かつわかりやすくに説明する姿勢に徹するべきです。

3)本質的にトラブルになりやすい理由

 リスクコミュニケーションは,,同じ情報が,情報を発信する側と受信する側で全く別の捉え方をされてしまう場合があるのが難しいところです。

 この事例として,リスクを受ける側(主として住民,需要者)とリスクを制御する側(事業者や行政当局)で,取り扱おうとするリスクレベルが全く異なる事実が能勢町DXN問題の調査で明らかになったとのお話を伺いました(土木工学会環境工学委員会にて)。前者,すなわち不安を訴える住民側は,「存在しうる最悪のリスクレベルに関する情報を要求する」のに対し,後者,すなわち行政側は,「妥当と考えられるリスクレベルに関する情報を提供する」姿勢に終始しがちとなります。この例では,地域住民全員の健康診断を要求する住民側に対し,リスクレベルから考えて健康被害があるはずがないと判断して行政側がこれを拒否したことが,対立の大きな要因になっているとのことでした。

 また,最近の例ですが,厚生労働省がある種の魚類について,「妊娠期の妊婦についてはリスクがあるため摂食を控えるべきである」旨を公表したところ,「なんら影響の心配はない」ことをわざわざ念入りに強調していたにも係わらず,同種の魚の消費が敬遠され,市中の同種の魚類の相場が暴落した,という事件がありました。この点を捉えて厚生労働省の情報発信を非難する向きもあったようですが,これを非難するのはあまりに短絡的かつ不適切でしょう。リスク情報の公開を進めようとする前向きな活動の芽を摘むだけの,おろかな非難であると断じ,厚生労働省側の行動を高く評価するものです。

 このようなことがなぜ起こるのかを模式図にしてみました。左が発信側,右が受信側です。発信側はリスクの正体をある程度正確に把握しているのに対し,受信側は専門知識の不足から,リスクを最大に捉えている様子を表現しているのですがどうでしょうか。

 行政側の工学的判断は決して間違っているわけではないのですが,リスクコミュニケーションを考える上での対応としては妥当ではなかったということになろうかと思われます。水道の現場でも,水源事故情報や濁水対応など,同様のケースが発生する頻度は(レベルの差こそあれ)多いと思われます。

4)実務的には

 では,リスクコミュニケーションを適切に行うにはどうすればよいのか。まず,報道を誤解なく的確に行うためには,平時よりのシステムの構築や,十分な訓練を積んでおくことは,軽視されがちではあるが重要です。

 また,特に健康にかかわる情報については,いざリスク要因が発現してから説明しても「いいわけ」っぽく受け止められてしまうことが多くなることは忘れてはいけません。いざというときこそ,平素からの情報公開の姿勢が問われるわけです。

 事件や事故の広報は,その方法を誤れば,市民との信頼関係に重大な齟齬を引き起こす可能性があり,慎重かつ大胆でなければなりません。実際,イギリスの民営水道の監査を行うDWI (Drinkig Water Inspectorate)では,その主要なミッションの一つにマスコミ対応が明記されており,そのための専門的な研修を受けた専門官を配置しています。

 ただ,残念ながら,誠意を持って対応していても,反対キャンペーンのような報道をされてしまうケースがあるのも事実です。こじれてしまった事例を紹介します。(かならずしもここで取り上げるのが適切とはいえないかもしれないのですが,水資源関係ですので...)

  • 10月15日付朝日新聞「窓」の報道に対する建設省の書簡について(リンク切れ)【国土交通省河川局】 長良川河口堰問題に関する朝日新聞社とのやり取りを省側が掲載。
  • 【うわさとニュースの研究会】(リンク切れ) 噂の広がりについて分析的に研究したページ。

(4)アカウンタビリティ(説明責任)

 アカウンタビリティ(accountability)は説明責任と訳される言葉で,事業等の活動に関するインプットとアウトプットに関する情報を,誤解されない努力を伴って開示する活動のことです。会計分野で最初に導入された経緯があり,当初は「財務の公開」を指していた言葉だそうですが,最近では,事業活動やその責任の範囲が環境や社会にも波及することが多くなってきており,これらの分野に関する説明責任をも含むようになってました。

 公共事業はもとより公共の福祉を目的としているため,交渉相手との駆け引きが必要な外交分野など一部を除いて,当然このアカウンタビリティを果たすための活動は必須のものです。情報発信の根拠はこの点にあります。



目次

情報発信と説明責任


備考・出典


更新履歴

  • 120626 新様式で作成


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