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クリプトスポリジウム Cryptosporidium

 各物質に関する情報をとりまとめたコーナーです。片っ端から集めた情報を載せる予定です。

  • 防疫
     防疫(病気などの伝播を防ぐこと)に関する情報をまとめました。

【参考】
 クリプト以外の原虫などに会いたい人は「防疫」を参考にしてください(^o^)


水道への影響

1)クリプトスポリジウムとは

 病原性原虫の一種。食中毒のような下痢症状を引き起こします。健常者が死に至るような重篤な影響を受けることはまずありませんが,下痢は体力を著しく損なうので,子供や老人,免疫力の低下している人の場合には危険があります。

 クリプトズポリジウムが水道界でリスクとして認識されるのは,クリプトすポリジウムが消毒塩素に耐えるためです。通常の水処理をしっかりしていれば除去されますが,最後の安全策としての塩素消毒が有効でない点については考慮しなければなりません。

 なお,このページで掲載するのは水道屋としてのクリプトの知識です。水質検査屋さんとしてのクリプトへの対応はさらに詳細になります...専門家の開設されているサイトをご覧ください。

  • 【プレコの水槽】(リンク切れ)
     クリプト対策の概要,対策,写真など,クリプト関連情報満載。括目の秀逸サイト。

2)水質基準と除去の目安

(1)水質基準等

 オーシスト(いうなれば種のようなもので,環境中での姿)1個でも発症する可能性があるとされているので,完全除去が前提とされています。しかし,驚かれるかも知れませんが,水質基準値は存在しません。

 実際の対応として,水道水質上の対応としては,行政指導としてろ過池からの漏出濁度を0.1度未満とすることとなっています。これは,オーシストの懸濁質としての存在確率に注目したものです。0.1度が推奨される根拠ですが,厚生省(当時)の審議会資料によると,連続測定技術のレベル,運転技術上の限界,ミルウォーキーや越生での運転濁度の事例,パイロット実験における濁度とクリプトリスクの相関,などということです。(秋葉道宏 浄水処理における対応とモニタリング)

 ただし,この行政措置も平成18年8月4日付けで若干方向修正されました。これについては(3)クリプトスポリジウム等対策の考え方,で述べます。

(2)指針(旧指針)

 平成8年6月に,我が国で始めて水道水に起因するクリプトスポリジウムによる感染症が埼玉県越生町で発生しました。このような状況を鑑み水道事業者等が当面講ずべき,予防的措置や応急対策について暫定指針が定められました。解説本も出版されていますので,クリプトに興味のある方はご一読を。

(3)水道におけるクリプトスポリジウム等対策の考え方について

 平成18年8月4日,厚労省の厚生科学審議会生活環境水道部会(事実上の水道に関する学識経験者の最高諮問機関)にて,「クリプトスポリジウム等対策の考え方」「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針(案)」が示されました。これによって,以下の条件下において,紫外線処理設備をクリプトスポリジウム,ジアルジア等対策に位置づけることができるようになりました。

  1. 紫外線の照射量が常に処理水量の95%以上に10mJ/cm2以上であること
  2. 処理対象水の濁度が2度以下であること
  3. 紫外線強度計及び原水の濁度を常時測定する濁度計を備えること

 判断のフロー図を以下に引用します。これはJWRCのホットニュースで速報され,厚労省から告知されるものです。(公的な告知を目的とした資料なので著作権問題なしと判断)

 

3)毒性や障害

 感染すると腹痛を伴う水様性下痢を引き起こします。嘔吐や発熱を伴うこともあります。感染しても症状のでないこともありますが,免疫力が特に低い,子供や老人,免疫不全患者などの場合はごくまれには死亡することもあります。

 この手の,下痢を引き起こすような病原体は,細菌や原虫の種類が異なってもあまり症状が変わらない,といった特徴があります。逆にいえば,大量に下痢をはじめる患者が発生してから,はじめて,流域での集団感染が疑われるようになるわけです。事例では,最初の患者が認定されるまでに2週間以上かかり,その間に被害が拡大したり,といったこともあったようです。

 実は,私,いちどクリプトに感染したらどうなるか,体験してみたいと考えていました。しかし,実際にもっとも強烈に感染した人(大量の被曝感染)の話を伺って,その気持ちは消えうせました。実際にやられると,いわゆる下痢の強烈なやつ...トイレと往復,ではなく基本的止まらないのでオムツが必要...が1週間程度続くのだそうで,正直その間は社会生活はできないようです。

 ただし,頻度ベースでみたリスクレベルで言えば食品の方がずっと大きなリスク(一説には100倍以上,出典は忘れました(-_-;))

です。

4)汚染原因

(1)原水からの混入

 講演でのお話では河川水中のクリプト濃度は,2〜4400個/100L程度との研究結果があるとのこと。これに対して,クリプトのオーシストの感染確率は0.4%(1個あたり0.4%の確率で感染)と言われているが,10%とする報告もあるそうです。

 海外と比べてわが国のクリプトの存在量は1桁程度少ないようですが,大河川では大体は検知されます。

 クリプトは感染者が原因となる水系伝染病の一種といえます。米国などでは,ジアルジアなど他の原虫類とあわせ,不衛生な水の飲用や,水遊びなどによる感染が急増しているという報告(WaterWeek@AWWA)もあります。

 汚染の恐れのある水道は,主として水源となる表流水,伏流水,浅井戸の上流や周辺に,人間や哺乳動物(ウシ,ブタ,イヌ,ネコ等)の糞便処理施設のある水道ですが,これに該当しない場合もあります。また,降雨後や渇水時など,原水の汚濁が進む場合などは特にリスクが高くなりますから,後処理が不全な場合には,濁度を指標としてこれが平常化するまでの間,取水を停止することも選択肢のひとつです。

 あまり大声ではいえませんが,豚や牛を飼っているところの流出側では,1万/L程度のクリプトは普通に検出されるようです。鶏は出ないみたいですけど。

 平成13年11月13日,厚生労働省は「水道水中のクリプトスポリジウムに関する対策の実施」を通知,暫定指針を一部改正しました。ここでは,クリプトによる汚染について,(1)原水から大腸菌群が検出,(2)人畜の糞便処理施設などの排出源がある,の2つのケースについてリスクがあるものと判断すること,とされています。右図は,水道産業新聞の2001年11月22日に掲載された判断方法のフローです。フル画像を表示するには図をクリックしてください。

(2)施設内での混入

 水道技術研究センターの水道ホットニュースによると,イギリスで,2008年6月に,浄水からクリプトが検出され,煮沸勧告が出されることになったらしいのですが,その汚染源は,なんと,逆洗浄タンクに入り込んだ小さなうさぎだったとのこと。そのような汚染パターンもありうるということで,掲載させていただきました。

 まあ,わが国でも,受水槽で....

5)処理方法

 クリプトがもっとも厄介なのは,水道において消毒剤として使用される塩素に耐性をもつ(シストの場合)ことです。このため,クリプト対策は,懸濁成分として水相からの分離することが主たる対応策です。ただ,分離のみでは十分ではなく,汚泥中からの除去や不活性化が研究されています。

 厚労省の指導では,現在,深井戸の場合を除く水源に対して「ろ過を行う」ことを条件にしています。この条件で考えれば,紫外線は処理方法としては採用できないことになります。が,なんせコストが安いので,リスクレベルを勘案すれば,クリプト対策として紫外線を使うことを認めてほしいとの声は多く(私もそう思います),今後の情勢次第では規制が緩和されるかもしれません。

  • 膜処理(6log程度)
     大口径膜,MF,UFに係わらずほぼ確実に除去可能。クリプトの分離はできるが不活化をどうするかが課題とか。ただ,除去したクリプトは全て排水に回るわけで,これをどうするの,という問題は残る。
  • 緩速ろ過(3-4log程度) こちらも確実なのは分離まで。生物分解されるのかな?わかりませんが。
  • 凝集沈殿ろ過
     実験結果は1/650(2.8Log),既往文献などからは2.4〜4.7logと出ている。これから,2〜3log程度であると見積もられる。相当汚染が進んだ(4400個)ケースでは感染のリスクを払拭できない。
  • 塩素消毒
     1logの不活化のために800mgCl・min/Lの摂食が必要。配水池内の条件を想定すると,塩素濃度1.0mg/L,14時間の接触で1log(90%)の不活化が期待できるそうです。だからまったくぜんぜん効かないというわけではなく,決定力はない,ということですね。
  • オゾン処理
     塩素では不活化できないが,オゾンであれば数logの不活化が可能らしいとのこと。対策として有効と考えていいでしょう。ただし,水温依存性が高い点が非常に特徴的。水温20℃で3.4mgO3・min/Lで済むところが,3℃では43mgO3・min/Lも必要になる。低水温で不活化力が低下する点に注意が必要なんだそうです。凝集沈殿,オゾン,活性炭のセットで,概ね5log程度になります。
  • 紫外線 (クリプト関連特集)
     生育活性を奪うには相当強い照射が必要であるが,感染性を奪うためにはかなり低い線量でも十分な効果があることが判明している。感染性は失っているが,生育活性は残っている状態になる。
     紫外線の場合,3log程度で感染性を奪うことができるが,生きているのでその効果を現場でチェックするのは難しい。ただし低汚染の原水などであれば紫外線処理で十分であろう。紫外線照射のガイドラインはJWRCより発行。
     光回復の試験を行ったところ,ESS試験の結果として,DNAの損傷修復が見られる。しかし,光回復をする場合でも,感染性は回復しないことが判明したとのこと。ただし,紫外線消毒は濁質が存在すると,濁質が盾のようになって効果を低減してしまう点に注意が必要です。
  • 放射線
     放射線消毒はPA(Public Acceptance)の問題があって浄水処理には使いにくい。ただし,強い透過性がある点は魅力的であり,たとえば汚泥の消毒用としては有効ではないかと考えられるとのことでした。現在のところはコスト高であるが,汚泥を集約すれば可能性は十分?
  • 二酸化塩素
     塩素消毒の10倍程度の効果があるが,決め手にはならない。

6)処理以外の対策

 予防的対策として考えれば,水源地への原虫類の侵入の防止が重要です。シドニーでは,「シドニー・ウォーター・クライシス」の反省から,水源地域と放牧地域を厳密に区別するという形での予防的対策がとられています。

  • 水源保護
     水源の保全に関する情報についてとりまとめたページです。

 また,疫学的リスクは,感染者の存在が汚染を増幅させる特徴があります。平たく言えば,感染者が次の感染源となり,感染が加速度的に拡大する,ということです。よって,感染者の情報をいち早く入手し,広報によって警戒と管理を高める(煮沸や手洗の呼びかけ)ことが必要です。このあたりの考え方については別ページにまとめておりますので,こちらもご参考ください。

  • 防疫
     防疫(病気などの伝播を防ぐこと)に関する情報をまとめました。

7)検出方法

 目的の違いから,研究室レベルの検出とフィールドレベルでの検出に大別できます。

 研究レベルでの検出は,クリプトの感染性にまで踏み込んだ検査が必要ですが,隔離した環境で精度高く計測することができます。この情報は麻布大の森田講師(平田教授)の講演での情報です。

  • 生育活性,生残性を見るもの
    • 脱嚢試験 胃の中の状態(酸性条件),腸の中の状態を人工的に作ってクリプトオーシストに刺激を与え,殻を破って中身が出てくる率を見る。3時間で結果がわかるが脱嚢を検鏡で判断するので熟練を要する。
    • 生体染色法 DAPI(生きていると全体,死んでいると核のみが染色される試薬),PI(生きていると染色されず,死んでいると染色される試薬)で染色して,生死を判断。これも熟練を要する。
    • PCR法 化学処理によりDNAを増幅する方法。短時間(1日)で結果が得られる。定量性に欠けるが感染試験には有効である。このため,感染試験の一種として見るケースも多い。
  • 感染性を見るもの(感染試験)
    • マウス感染 免疫不全マウス(SCID)を使用してMPNを出す方法。感染力を実地で評価できるメリットがあるが,1回の試験で数百匹のマウスを使用するため,費用や動物倫理の問題がある。(麻布大チームでは,一匹一匹のマウスを全て別ケージで飼育することで実験の精度を非常に高く持ってきていて,世界的に注目される精度の高いデータを得ている。)
    • 培養細胞感染試験法 ヒトの細胞を使ってヒトへの感染性を評価する方法。結果の再現性が様々な要因によって変動する。

 ここで,気をつけなければならないのは,生残性と感染性との区別をはっきりする必要があるとのことです。

 右図のように,生残性と感染性では相当感受性が異なるケースが多いそうでして,評価のスタンス,評価手法を明記していない疫学試験結果は意味が異なるとこと。クリプトの場合,感染性試験による評価が必須であるのだそうです。

 つまり,生き残っていても感染できない(生殖能力=感染能力が失われている)状態がありうるということでらしいです。

 一方,フィールドでクリプトを検出する技術については以下のようになります。

  1. パーティクルカウンタによる微細濁度管理。濁度管理によりクリプトの影響を予防。クリプト自体の検出は目的としていません。
  2. 検鏡同定。同定には高度な経験が必要で,特に,オーシストが生きているか死んでいるかを見分けるのが専門家でも難しいとのことです。
  3. その他最新技術。クボタがDNAチップマーキング方式を開発,H17年度の実用化を目指すとのこと。このほか,ソリッドフェーズサイトメトリー法,フローサイトメトリー法のように酵素等でマーキングしてレーザーで検出方法が研究されているとか。よく知りませんが。

 特に,検鏡同定作業は特に難しい。中身が出てしまったカラと,生きているクリプトを見分けるのに熟練が必要なのがネックです。学生さんとかができるようになるまで1年かかるのに,できるようになったころには卒業してしまう...とは某先生の弁。

 ただ,大腸菌群数や一般細菌などの項目から生活排水等の流入傾向は類推できますので,ある程度のリスク管理は可能です。糞便の原水中への混入を疑い,代替指標としての大腸菌(E.Coli),糞便性大腸菌群,糞便性連鎖球菌,嫌気性芽胞菌等の検査を行うことが考えられます。

  • AWWA journal(リンク切れ)
     河川水におけるクリプトスポリディウムのオーシストの検出のための,米国環境保護局公定法1622の評価に関する議論 

 なお,処理方法の研究では,クリプトそのものを使用することは危険ですので,トレーサーを使用します。クリプトと比重などを似せた,いわば擬似クリプトを用いて,これを各種の処理方法で除去できるかどうかを見るものです。トレーサーには蛍光処理が施されており,顕微鏡などによる検鏡などで数を同定します。このほど,(財)水道技術研究センターが主体となって開発されていた,クリプトスポリディウムの除去試験用擬似トレーサーが正式にリリースされました。


特記事項



目次 

水道への影響
 基準,毒性や障害,汚染源,対処法,検出法について。水道としての視点からとりまとめました。

特記事項
 当該物質に関連した情報について集めたものを掲載。


備考・出典


更新履歴

  • 230428 リンク先等修正。。
  • 120913 新様式で作成。
  • 111118 クリプトスポリジウム対策@鳥取市水道局:リンク先変更
  • 111118 クリプトスポリジウム代替トレーサー粒子@(財)水道技術研究センター:リンク先変更


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