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最初にこのページを作成した2001年段階では,まだ,この分野について専門的に研究している人くらいしか情報がなかったものです。しかし,その後の継続的な調査によって,随分と情報も増えてきました。今回ここに掲載している情報を修正するにあたっては,この間の様々な努力がベースになっています。 さらに,2005年には環境省が、「内分泌攪乱作用を有すると疑われる化学物質」67物質のリストを取り下げるに至り,報道当初のパニック的な対応は最近では見られなくなったようです。 内分泌攪乱化学物質まず最初に,このページの情報を参照するための前提条件として。内分泌かく乱科学物質,いわゆる環境ホルモンは,生物の内分泌作用への影響がありうる物質として問題提起されたものです。研究論文などからリスクの高そうな67物質がリストアップされ,これらを中心にその後研究が実施され,特に哺乳類のような高等生物に対する作用はほとんど確認されず,2005年にはこのリストも取り下げられました。 この結果は,あくまでも研究の成果として,他のリスク要因と比較してのリスクが十分に小さいと判断されたと考えるべきです。とはいえ,勇み足や空騒ぎと考えるのもまちがっていて,そのような問題提起を真摯に受け止め,研究を進めた結果が,ほぼシロだった,ということでしょう。 1)内分泌攪乱物質とは 内分泌かく乱化学物質とは何か。定義としては以下のようになっています。
内分泌かく乱物質に関する情報は,さまざまネット上を飛び交ってますので,そちらを参照ください。私も勉強してみますが,多少ならず敷居が高いです...とりあえず,「環境ホルモンサイト」として過去にヒットしたものを紹介します。
2)基準や規制 一応の行政レベルの対応としては,1998年に当時の環境庁が策定した環境ホルモン戦略計画(SPEED'98)にて,当面対応すべき、「内分泌攪乱作用を有すると疑われる67物質」が提示され,これへの研究が推し進められた経緯があります。 ただし,研究の成果として,リスクレベルが十分に低いことが確認され,このリストは2005年に撤回されました。 今後は,個別にさらなる研究を推し進めるという対応になりそうです。 3)毒性や障害 どの程度の濃度でどのような影響があるのかわかっておらりません。少なくとも通常使用では見てとれるような影響がないということと思いますが,確認しておりません。いづれにせよ,どんな環境ホルモン物質よりも,農作物に残留している農薬とか,タバコや排気ガスの方が,明確に「有毒」な物質です。環境ホルモンは「影響があるかもしれない物質」にすぎませんので,目くじら立てることはないと思います。 魚の性転換などの報道が世間をにぎわしたこともありましたが,実際コイなどは,稚魚の段階では結構簡単に性転換する生き物だそうです。イボニシなど貝類へのトリブチルスズの影響は看過できないようにも思いますが,このように明らかに問題のある物質は,少なくとも国内では製造使用が禁止されています。 また,多くの医薬品は文字通り内分泌撹乱物質ですが,その作用は悪影響でないので社会問題とはなっていないようです。ただ,アメリカでは,これら医薬品が水道水源に与える影響を懸念するレポートなども出てきているようです。
また,医学的研究により,内分泌系に対しての外乱(外からの影響)には無作用量(無効化できる余裕のようなもの)があることが示されています。また,天然物・食品中の成分,たとえば大豆などの食品には女性ホルモン活性を有する成分が含まれており,女性ホルモン活性換算では,人の摂取量は,環境残留性の塩素化炭化水素,有機スズや農薬,フタル酸エステルなどの化学品に属するものの総計より遥かに多いものと見られています。 ただし,特に生物の発生時期(胎児の段階)においてはこのような無作用量の効果があるかどうかは分かりません。また,農薬など大量に環境中に散布されるものについては,鯨類など生物ピラミッドの頂点にいる生物の脂肪に蓄積し,流産などの影響もみられるという報告があります。安全と言いきってしまうにも,知見が不足しているのが現状でしょう。 4)汚染原因 汚染源は人間活動全般ですが,人間そのものが分泌します。そして,環境ホルモン「様」物質なんかよりも全然強い影響を持ちます。全般に,比較的生物分解性はよいものが多い(もちろん農薬起源などではそんなことないのもあるでしょうが)ようですが,このあたり未確認です。 プラスチックの原料であるビスフェノールA,プラスチックの可塑剤等に使用されるフタル酸エステル類の一部の物質,界面活性剤であるノニルフェノールエトキシレート(分解によりノニルフェノールを生じる)等はその生産量が年間数万トンから数十万トンと他の物質に比べて多いものとなっています。特に,存在確率がもっとも高いフタル酸−2−ジエチルヘキシルなどは,空気中からいくらでも検出できます。ただ,現在の各種研究成果によると,他の生活必須材に比べて水からのリスクレベルは2桁以上は低いとのことです。 水道における内分泌かく乱物質の検出の有無については以下のサイトを参照されるとよいでしょう。
5)処理方法 現時点では処理方法に関する確たる知見はなく,研究段階です。ただ,リスクとして大きくないとの判断から,特に環境ホルモンを対象とした処理方法は不要で,一般の有機物などの除去方法がそのまま有効であると考えるのが妥当でしょう。 未確認情報ですが,研究者の話では,フェノール類やダイオキシン類については,原水中の存在量が小さく,また溶解性物質の除去能力が低いとされる急速ろ過法でも99%程度の除去率が得られる(疎水基の効果で懸濁質にくっついているためではないかとのこと)そうです。このへんについては,いずれ,ニュースソース及び詳細が確認できれば掲載します。 6)検出方法 内分泌撹乱物質など,微量有機物の分析と同定には,一般にガスクロマトグラフ−質量分析装置(GC-MS)を用います。しかし,あまりにも低いレベルでの測定になるため,誤差の影響を排除したり,濃縮したり,などの手続きが必要です。水相での測定方法については,有害化学物質等監視情報ネットワークのサイトをごらんください。 どうしても心配なので,とか,公式発表が信用できないので測ってみたい,という人もいらっしゃるかもしれません。一般に水系で検出される可能性があるのは先に挙げたように生産量の多いフタル酸エステル類とフェノール類とのことのようなので,どうしても測ってみたいのならこれらの項目を測ってみるとよいでしょう。 ただし,先に述べたように,不用意に空気に触れるだけでコンタミする(対象とは因果関係のないデータが混じる)ほど微妙なレベルであることを念頭において検査してください。専門知識と技能のない人が自分で採水してこれを検査機関に持ち込んでも信頼性のおけるデータは絶対に得られません。(絶対と言ってしまっていいのかって?いいです。)ちなみに1検体あたり数万から数十万で検査できます。(かなり安くなりました) 【備考】 水道と内分泌攪乱化学物質このページでは,水道という切り口で見た場合の現時点の情報を中心に掲載してみたいと思います。 (1)水道にとって比較的リスクが大きいと考えられる項目環境ホルモン類の研究は各省庁が各分野において平行して取り組みを開始した経緯があり,当初は若干混乱も見られましたが,問題のありそうな物質の絞り込み,という視点で見るのであれば,環境省が継続して行っている水環境における存在実態調査が最も参考になるでしょう。
この調査で現在も継続調査の対象となっているのは以下の項目です。
【備考】 (2)内分泌かく乱物質のうち,水道として注目すべき項目はEDのうち,水道水中の存在リスクが比較的高いものがどれかということになりますが,今般の水質基準改訂(H15改訂,H16施行)で検討をする対象として選定された項目について注目するといいのではないかと思われます。以下に,これに該当する項目と,その簡単な特性を列挙します。 1)ダイオキシン類,PCB類 ダイオキシン類については,前水道水質基準(H4)で監視項目にとりあげられ,その後の経緯をチェックすることになりました。1pg-TEQ/Lという,おそらく人類史上最も微量の基準値が関係者を驚かせたのが記憶に新しいところです。なお,当ページではPCBも同類で扱ってますが,厳密にはすべてのPCBがダイオキシン類ではないので注意。
2)有機スズ化合物 有機スズ化合物は環境ホルモンの象徴のような物質で,この物質が原因とみられる貝類のインポセックス,即ち「オス化」が有名です。このうち有名なのは,トリフェニルスズ(TPT),トリブチルスズ(TBT)です。船底にフジツボなどがくっつくことを防ぐ一種の農薬として利用された化学物質ですから,もともと生物への忌避性,毒性が買われて活用された物質なので,毒性があっても当然かもしれません。当然というべきか,少なくとも国内では使用禁止となってます。有機スズ化合物については,水質基準項目に取り入れる必要があるかどうかを継続検討する対象となっています。また,PRTRにレジストリされ,環境への放出量などを捉える努力がなされています。 3)アルキルフェノール類 ノニルフェノール,ビスフェノールAが有名。樹脂材料の改質剤として幅広く使用されてきましたが,有効だったためにその使用量が多く,EDの象徴となってしまいました。問題として認識されてからは代替材に切り替わりつつあるようで,環境中での検出量なども減少傾向を示しています。今般の基準改正で,水質基準項目に取り入れる必要があるかどうかを継続検討する対象となっています。また,PRTRにレジストリされ,環境への放出量などを捉える努力がなされています。 4)フタル酸エステル類 用途は主として有機溶媒や可塑剤など。フタル酸ジエチル,フタル酸ジーnーブチル,フタル酸ジー2ーエチルヘキシルなどが検討対象となっています。アルキルフェノール類などと同様に検討中。 5)エストラジオール類 17β−エストラジオール,エチニルエストラジオールが特に調査中。他の環境ホルモン様物質と一番異なる点は,人が積極的に摂取する,ということ。そう,これらの物質は,女性ホルモンそのもの,もしくはそれに近い役割を果たすことを期待されて,使用されるものなのです。ですから,薬として捉えた方が感覚に合ってます。今般の基準改正で,水質基準項目に取り入れる必要があるかどうかを継続検討する対象となっています。が,薬なので,PRTRにはレジストリされてません。 ... とまあ,環境ホルモンと一言で言っても,化学物質として使用されたもの,毒(農薬)として使用されたもの,薬として使用されたもの,自然界で発生してしまうことが分かったもの,と,ホント様々です。今後とも新しい物質がいろいろ開発され,そのうちのいくつかはこういう問題を引き起こしていくのかもしれません... 【参考】 |
目次内分泌攪乱化学物質 水道と内分泌攪乱化学物質 備考・出典
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