配水池の容量 |
Volume Computing of Reservoir Tank |
配水施設の中核施設,配水池の容量について取り上げます。始めは設計の一部だったんですが,肥大化したため分離しました。
【参考】
配水池の容量
1)配水池の役割と容量
(1)配水池の容量の考え方
配水池の役割について,水道施設設計指針・解説(1990)では,以下のように規定されています。
配水池は配水量の時間変動を調整する機能を持つとともに,異常時は,その貯留量を利用して需要者への断水の影響をなくし,あるいは軽減するという大きな役割を持っている。従って,配水池は,平時の安定給水,異常時の給水対策の両面から,その配置と容量並びに構造について十分な検討を行った上,適切に整備することが必要である。 <中略> 容量については,従来,計画一日最大給水量の8〜12時間分を標準としてきたが,今後の整備にあたっては,特に異常時における対応を可能とするように,さらに将来における労働条件の向上に伴う諸制約を加味して,地域の特性,水道施設の全般的配置に応じて,適切な容量とする。 <後略> |
このように,配水池容量は,配水調整容量,緊急用水量の必要性により決定することになります。
配水調整容量 |
送水量あるいは浄水量と配水量の調節を行うために必要な容量です。需要の変動パターンによりますが,通常5〜6時間分に相当する(水道施設設計指針・解説より)とされています。 |
緊急用水量 |
想定する緊急事態にもよるのですが,火災時の消火用水,停電などによる送水停止時に対応するための浄水,さらに大地震時などには,生命維持用水など,様々な非常事態に対応する水量が考えられます。火災時の備えとしては最低1時間分とされますが,これは消防法での,1回の放水継続40分以上,をにらんだ数字です。 |
これらから,配水池の容量はどの程度が適当なのかについてはさまざま議論されており,行政指導も,島嶼「8時間分以上」だったものが、「12時間分以上」に変化したのち、「必要に応じて十分」,といった風に変遷してきております。
(2)配水調整容量
配水池に配水調整能力を与える場合の容量については次表を参照ください。
施設 |
滞留時間 |
目的 |
備考 |
ポンプ井 |
30分以上
/計画導水
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ポンプによる乱流の影響を抑制し,施設への悪影響や水理的な不安定を抑制する。 |
配水池などと一体化していればあまり容量はいらない。 |
浄水池 |
1時間以上
/日最大配水
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浄水を一時貯留し,送水の安定を確保すると同時に,消毒を確実に行う。 |
浄水池の1時間分は最低限と考えた方がよい。複雑な運用をする場合,1時間では不足な場合が多い。 |
配水池 (送水調整容量) |
1時間
/日最大配水
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小規模水道にて,配水池同士を連絡する場合の送水の安定を確保するために加算する。 |
過剰なことも多いが,小規模な配水施設では余裕を積み増しておくことが必要なので,可能な限り見こんでおく。 |
配水池 |
12時間,海外では2〜4日の例あり。 |
取水〜浄,送水施設の能力を必要最小限に抑制し,配水に必要な瞬間能力との調整を行う。 |
大きくする場合は水質変化に注意。また,池としては大きいので,容量の考え方についてよく考えること。 |
高架水槽 (水圧調整) |
30分
/日最大配水
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加圧施設の運転管理を容易にする目的で設置され,配水池の容量とは別に確保される。 |
配水塔などを使用する場合は,配水調整容量と緊急用水量が分離されることに注意。 |
高架水槽 配水池兼用 |
1〜3時間(通常)
/日最大配水
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配水池としての能力を併用させる場合は構造の許す範囲で大きくとる。 |
水圧の確保が主目的の施設なので,特殊な構造を採用する。このため大きくすることが難しい。 |
なお,その他の構造物の容量については以下のページを補足利用してください。
(3)消火用水量
大規模な配水池では設計指針などを参考にしてください。消防水利の根本的な考え方は,消火栓1栓全開を1時間分(法的には40分以上)ですので,その土地土地の消防水利,消火栓能力を考慮して消火用水量を加算します。
消火栓の種類別の能力は以下のようにして設定します。本来は双口消火栓の使用が前提ですが,小規模水道で延焼の危険性が低い山間部などでは小型消火栓を前提とした設計がされることもあります。
- 双口消火栓 φ65×2 (本管口径φ300以上) 1.0m3/分
- 単口消火栓 φ65 (本管口径φ150以上) 0.5m3/分
- 小型消火栓 φ40 (本管口径φ75以上) 0.13m3/分
(4)緊急用水量を計上する場合
配水池の容量に関する各種文献を以下に集めましたが,ここに見るまでもなく,国内で発表されている各種の文献では,水道施設設計指針・解説に示されている一日最大給水量の12時間分を確保すること,との見解が現時点では一般的です。
また,県水受水を受けている場合など,複数の配水池がシリアル(直列)に連結している場合について,緊急用水量の考え方を以下のように設定している例があります。どこの例かは忘れましたが。
- 緊急時用水量
=(「日最大の5〜6時間分」もしくは「一人あたり160〜180L分」)−「後続側にある配水池の緊急時容量」
文献
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有効容量
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記述
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「水道施設設計指針・解説(1990)」(水道協会) |
12 時間 |
有効容量は,給水区域の計画一日最大給水量の12時間分を標準とし,地域の特性,水道施設の安全性を考慮して増量すること。 |
「簡易水道等国庫補助事業に係わる施設基準」(全国簡易水道協議会) |
12〜24 時間 +消火用水量(小規模施設用) |
簡易水道のように小規模な施設については給水量の時間変動率が大きくなることから,一日最大給水量に対する容量を増加させることとし,さらに消火用水容量については消火栓1栓の1時間放水量を加算。 |
「水道行政」(厚生省水道環境部水道行政研究会) |
12〜16 時間 |
浄水貯留施設の機能増強については,おおむね12〜16時間分以上の容量を確保した場合には,この容量により想定される渇水被害の10〜15%を軽減できると予測。 |
「水道・21世紀へのビジョン」(藤原正弘) |
1.45〜4.00 日 (外国の例) |
当面国の一般的な基準としては「十二時間分」ということにして,その基準に合うように施設を改良して行くよう各水道事業体に努力していただくこと。 |
参考 |
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事例としては,独自に24時間分を確保することとしている事業体もあります。 |
【備考】
2)配水池の設計条件の決定
容量の目星がつけば,配水池をどのように設置するかを検討する基礎的条件が確定したことになります。が,現実には,最適な配水池の能力は,容量だけで決めるわけにはいきません。
非常に雑駁ですが,配水池の設計条件を決定していく手順を示すと以下のようになります。
- まず,配水エリアを想定し,前出の手順に従ってそのエリアでの需要水量を決定する。また,そのエリアがどの程度まで融通,変更可能かも確認する。
- 配水池に供給される水の安定性を確認。送水管の能力,水源の能力,送水途中での余裕容量等等を勘案。
- 12時間分+消火用水を一つの目安に,用地条件,地形条件,不確実性などを考慮して容量を決定する。平坦な用地であれば容量を大きめにとっても事業費は増加しにくい。地形や標高の制約が大きい場合は配水系全体の改善が非常に難しくなるので条件の変更があった場合の準備をしておく。不確実性が見込まれる場合は,その事態が発生した場合の対処を想定する。
特に,不確実性の如何によっては,以下のように,配水池の容量を大きくしすぎない方が良いケースもありますので,良く条件を吟味してください。私の場合,設計指針に依存して12時間分の確保を前提に設計をすることはごく希です。
- 消毒のみの処理の場合,原水量が十分確保できれば(井戸水源の場合など)配水池容量に関しては柔軟に考えられます。この場合,いたずらに配水池を大きくする必要はありません。
- 配水池は送配水の要であり,またもっとも大きな施設です。配水池の能力のひとつに「水位保持による位置エネルギーの保有能力」がありますが,一度運用を開始した配水池の水位は大きくは変更できません。このため,配水量や配水区域について十分に長期的な見とおしができない場合には,大きすぎる配水池がネックとなって,水理構造を見直せない場合がままあります。
- 自然流下の配水池は維持管理上最も望ましい反面,条件の変化に追随することは非常に難しくなります。地形的に,例えば適当な高台が近くにない場合などは,無理に自然流下方式とせず,圧力タンクなどを利用した方がよい場合もあります。
【参考】 設計指針,簡易水道指針他,文中参照。
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