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ここでは紫外線による消毒効果について取り上げます。 【参考】 紫外線消毒1)紫外線消毒の原理有機物は光線を吸収する性質がありますから汚れた水ほど黒く見えたりするわけですが,中でも紫外線は有機物の2重結合の部分にエネルギーを与え,結合を破壊する力が強いのだそうです。紫外線消毒は,紫外線のこのような性質を応用し,紫外線にさらすことによって微生物のDNAの2重結合に損傷を与えて,DNAの複製を妨げることによって増殖させなくすることがその消毒原理といわれています。 なお,紫外線は波長によってずいぶん意味が異なります。殺菌に使用されるのは波長にして250〜260nm(主として254nm)の紫外線で,UV260と記述するのはこのためです。化学反応を促進するのは主として365nmで,促進酸化法などではこちらの効果に期待するわけですが,消毒用のようにこれが邪魔な場合には,逆に365nmの波長の光を吸収するチタンを使うなどの方法で別波長の光を除くのだとか。 自然光としての紫外線でも,太陽光に数日〜1週間さらすことで疾病リスクが十分低下できることから,発展途上国では天日にさらすことが,もっとも有効で重要な防疫/消毒方法として位置付けられています。関連情報を示します。
2)紫外線消毒の特徴紫外線消毒法は,
などの優れた特徴を有します。特にこれらの特徴は,原水が清澄で規模が小さい,山間の小規模水道などに向いているものと言えます。また,コスト的に問題はあるものの,消毒副生成物が発生しにくい点に注目して,下水の放流水の消毒で使用されるケースもあるようです。 一方の弱点としては,
などがあります。 現時点では,水道法上の問題から,紫外線消毒の後に塩素消毒をすることが義務となっていますので,「紫外線消毒のみ」といった処理方法が全面的に採用される見こみは低いでしょう。ただし,塩素消毒で効果がないとされるクリプトについて,特に原虫そのものが死滅しなくても,その感染性が失われることがわかってきて,この方面からの研究が進んでおります。詳細についてはこのページで特集していますのでこちらをご参考ください。
3)紫外線消毒装置の設計条件水質衛生学によると,十分や不活化(消毒)のために必要な能力は,20−30mW・s/cm2と紹介されていますが、最新の知見は更新されていると思いますのでそちらをチェックしてください。 紫外線消毒装置についてはすでに水道技術研究センターから紫外線消毒のガイドラインが発行されています(e−WATERの研究の一環)ので、設計条件の詳細はこちらにあたってもらえればよいでしょう。 注意点として...紫外線消毒と塩素消毒を組み合わせる場合は照射の継続などに注意が必要であること、紫外線ランプのオンオフを頻繁にやると寿命が短くなること、等が指摘されています。詳しくは各自調べてくださいな(無責任) 4)紫外線消毒装置例海外では、紫外線消毒は以前から消毒施設として 実際に使用しているのはオランダや欧州の北部,山間部などです。実機の写真を示します。
実際に運用されている大規模な紫外線消毒設備の例です。上ぶっとい配管の途中を四角く加工して紫外線ランプのアタッチメント(青い部分)を取り付けたような印象です。四角い部分では,90度互い違いのフォーク状に紫外線ランプが差し込まれているそうです。
昔は浄水場として使用されていた設備ですが,広域化にともない,送水の末端の中継施設になったそうです。小規模な紫外線消毒装置が設置されていて,これは現在も稼動しています。 ![]() なお、下水道の放流水用ではわが国でも早い段階から導入例がありました。以下に概要を紹介。
わが国で運用されている紫外線処理設備の実例を見学する機会をいただきましたので掲載させていただきます。まずは管内設置型の例。下水の放流水ですが,生物付着はないのだそうで,その辺がなるほどといった感じ。光は水を通って緑色に見えます。 この地域は鮎漁が盛んで,地元の人の川に対する愛情が特に強い地域です。万一にでも次亜が流出して魚のへい死でも発生したらえらいことになりますので,紫外線消毒の導入が早期に進んだのだそうで。なるほどと思わせられるエピソードですね。 5)紫外線消毒技術の動向水道技術研究センターではAct21プロジェクトなどの研究活動を通じて紫外線消毒に関する有用性の評価を進め,紫外線導入ガイドラインとしてとりまとめました。この時期,紫外線消毒に関するわが国の現時点でのスタンスなどについて議論されました。当時の主流意見では,原虫汚染の恐れのあるところはろ過を義務付け,汚染の恐れは低いが可能性を否定するとまではいえないところは紫外線も可,といった感じでした。 また,平成18年8月4日,条件付きながら,紫外線処理が正式にクリプト処理技術として位置づけられました。 紫外線消毒の盛んな国は,そもそも気温が低いなど,微生物汚染のリスクが低い地域が中心ですので,もう少しわが国の実情に応じて知見を積む必要はあるかもしれませんが,わが国でも急速に導入事例が増加しているとのこと,すでに確立された技術と考えてよいでしょう。 紫外線消毒のコストは膜など他の方法と比べると比較的安いので,既存プラスでつけたりするのもいいでしょう。どこにでもつけられるので安全確保用にどんどん追加していく,というのが正しい付き合いかたかもしれません。もっとコストが下がれば,たとえば浄水器の中に入れるとか,どんどん応用範囲が広がるのですけどね。 ただし。平成20年度現在,紫外線消毒の導入にあたって,実験の実施が認可の条件として義務付けられているとの話を聞きましたので注意。紫外線による消毒副生成物が問題になる可能性があのは相当特殊な条件の場合(原水中や消毒塩素中の臭素?)ではないかと思うのですが? ただ...個人的には,ランプで紫外線を作ってる時代の次の時代に入ってほしいと思ってます。 【備考】 特集HPを長くやってると,技術的なお問い合わせをいただくこともございますが,なかなか自分自身も深く知ってるわけではないケースもありますので,そんなときには知り合いの先生にお願いしたりするのでした。以下は,そのQ&Aです。 よい質問をいただいたこともさることながら,すばらしい回答をいただきましてまことにありがとうございました。もともとこういう知見の交換ができれば,と思って始めたサイトですから,特に回答いただいたLittle Bear 先生には感謝しております。 Q (M.Sさん) 一つご質問なのですが,御教示いただければ幸いです。クリプトの不活化に紫外線が利用されているとのことですが,有効な波長領域は,具体的にどれぐらいなのでしょう?また,その場合,例えば320nmの波長だけ照射するように可視領域の光はカットしたりする必要はあるのでしょうか? A (Ms. Little Bear) 以下,回答させて頂きます。ズバリ,私の専門分野です(笑)。 >> クリプトの不活化に紫外線が利用されているとのことですが,有効な波長領域は,具体的にどれぐらいなのでしょう? バクテリアの場合250-270nmがもっとも有効,というのは古くから(最初の論文が1929年!)知られていますが,クリプトでもほぼ同様で250-275nmが最も有効,という知見が最近蓄積されつつあります。一番有名な論文(かつ,著者と個人的に仲良しなので紹介したい論文)は以下の通りです。 Linden, K.G., A.G. Shin and M.D. Sobsey. 2001. Comparative effectiveness of UV wavelengths for the inactivation of Cryptosporidium parvum oocysts in water. Water Sci. Tech. 43 (12):171-174. 要は,DNAの吸収スペクトルに従って効果が高い,という,当然といえば当然の結果です。逆に言うと,この結果から「クリプトもバクテリアと同様にDNA損傷により不活化する」と不活化機構を逆推定することも出来ます。 >> また,その場合,例えば320nmの波長だけ照射するように可視領域の光はカットしたりする必要はあるのでしょうか? これは,光回復を考慮して,ということでしょうか?中圧ランプのように幅広い波長を放出するランプだと不活化しつつ回復するのでは,という懸念が付きまといますが,そのような現象は未だ報告されていませんし,私自身もそのような現象は起きないと実験的に確かめています。一部拙著で記述しています。 Oguma, K., H. Katayama, and S. Ohgaki. Oguma, K., H. Katayama, and S. Ohgaki. なお,これまた手前味噌で恐縮ですが,クリプトは遺伝子レベルでは光回復的現象が起きても感染率は回復しない,という論文も出していますし,世界的にもクリプトは光回復しない,という結論でコンセンサスが取れつつあります。 Oguma, K., H. Katayama, H. Mitani, S. Morita, T. Hirata, and S.
Ohgaki. 長くなりましたが,このご質問に対する回答としては(光回復を懸念して,との意図であれば)可視光波長をカットする必要なし,です。 以上,ご連絡申し上げます。お役に立てば幸いです。 【備考】 |
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