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膜処理が登場する以前は,懸濁質のように水と混和したり,コロイドのように浮遊したり,あるいは溶解したりする物質の除去は,凝集や酸化,吸着などのプロセスで除去するしかありませんでした。しかし,膜処理の登場により,これらの物質についても物理的な固液分離プロセスで除去できるようになってきました。多くの優れた特徴を有する膜処理ですが,その導入時には濁度よりもその他の影響を見極めることが必要になります。
【参考】 膜ろ過法 Membrane Filtration(1)膜処理の概要ここでいう膜処理とは,有機もしくは無機の多孔質のフィルターに原水を通すことで,主として篩い分けを原理とした懸濁質の除去を行う処理です。膜による分離にはほかに逆浸透や透析がありますが,これはここでいう膜処理とは区別して考えます。 膜処理技術は19世紀後半にドイツでその原理が発見され,同時期にMFレベルの膜の開発が成功しました。20世紀前半にはすでに製造方法の特許が出願され,医薬品製造現場の無菌化などで大きな成果を納めています。1960年代にはアメリカでUF膜が市販化,1987年には世界で初めて米国キーストン浄水場で用いられました。フランス系などで,膜処理技術を導入したのが水道界で広がるきっかけになったとの説明もあります。 日本では,MAC21計画において膜処理の水道への応用が研究,開発され,現在でもこの中心であった水道技術研究センターが中心となって普及促進が図られています。
膜処理の長所と短所について簡単にまとめると以下のようになります。
このほか,膜関係の資料は(公財)水道技術研究センターに膜そのものに関する,膜施設に関する良著が多数あります。膜処理に関する超強力リンク集サイトをご紹介します。
さて,最後にひっそり指摘しておきますが,膜処理施設の導入経験のある事業体さんのお話を多数伺った結果では,
の2点が,膜処理施設がうまく運用できるかどうかを決定しているようです。一見だれが設計をしても同じようですが,実は導入段階における担当者やコンサルの,水道における技術的経験が重要ということでしょう。 ●水環境懇話会にて聞いてきた、Y村先生の話から。(2012年10月)
(2)有機膜と無機膜 水道用で使用されている膜には大きく分けて有機膜と無機膜があり,前者は樹脂製,後者はセラミック製です。前者の方が初期若干コストが低く機能設計が自由にできるのですが、後者の方が機械的に強靭で磨耗しにくく(耐用年数が長い)、強力な薬剤による洗浄が可能で回復力の幅が大きい、とされ,どちらが総合的に優れているのかについては,一律にはいえません。 (3)MF,UF,NF,RO 膜の稠密度によって,おおよそ上記の4ランクに分類されていますが,後述の大孔径膜のようにこの分類には当てはまらない種類のものもあります。このページで取り上げているのは,MF,UFで,膜ろ過と一言で言うとこれらのことをさします。
NFやROは溶解性物質まで除去できる反面,必要なエネルギーも格段に大きくなるため,これらの膜を使用する水処理はMFやUFと分けて扱います。ただ,技術開発の結果,これらの処理も安価になってくる可能性があります。 (4)大孔径膜 大孔径膜システムとは,主としてクリプトスポリジウムなどの原虫の除去をターゲットに導入されるもので,通常導入されるMFやUFよりも目の粗い膜材料を利用した膜処理システムです。目が粗いことによりロスが小さく,またコスト面でも本式の膜処理システムよりも安価になることが売りでした。 大孔径膜は,一般の膜処理システムと区別され,濁度成分を除去する能力についてはないものとみなして導入是非を検討することになっています。この辺が若干扱いとしても中途半端なのは,ほかのクリプト除去装置でも同じで,特に多くの清浄な原水においては紫外線装置でクリプト対策として認められることになって以降,守備範囲が狭くなり気味なのかなと思われます。 主として比較的清澄な表流水原水を有するケースで,しかしクリプトスポリジウムなどの原虫類の指標菌が検出されるなど,対策が必要と判断されたケースで導入されることがあります。 【備考】 (2)膜設備の導入と選定1)膜処理導入のきっかけ 膜施設の導入のきっかけについては,無処理水源の水質悪化,人手の不足,原虫対策などが挙げられます。 このうち,特にメンテナンスフリーである点が人手不足の事業者に受け入れられたことが大きな推進力になっているようです。小規模事業体では現場管理を少人数で行っている場合が多く,また浄水施設までの距離が長かったり,冬季などに路面状況が不全だったりします。特に薬品注入量の調整が不要で特別な技術を必要としない膜処理がこのようなケースで非常に有利です。 ただ,事業体が責任を持てるように無人運転とはしない方がよいという意見もありますので,反対意見として付記しておきます。 2)膜処理の導入の判断 膜処理を導入できるかどうかを判断するためには,なによりも原水の調査を十分行うことが重要です。濁度には相当な水準まで対応はできますが,水質項目によっては対処が難しい項目があることを重く受け止め,十分な対処を準備しておくことです。 実証実験ができれば一番よいのですが,ある程度以下の小さい事業体で十分な評価が難しい場合には,水道技術研究センターの認証制度を使用するのも手かと思います。ちなみに,認証制度を使わなくても通常の簡易水道と同様の範囲で補助対象となります。 また,どうしても技術的蓄積が少ない場合など,膜処理メーカーに依存する点が多くなります。この結果,コンサルタントによる基本設計,実施設計との連携に齟齬が生じ,土木,機械,電気設計及び施工管理の整合の崩れや施工の遅れにつながる場合があります。 維持管理段階に入ってからがむしろ本番です。薬品やモジュール交換,搬送など,維持管理段階での負担等について,検討段階で充分に比較しておくことです。むしろ,このようなライフサイクルコスト(LCC)ベースでの検討をせず初期投資での評価をしたところで,その評価は無意味とすらいえるでしょう。 ただ,水道用途としての膜の開発は始まったばかり。これから膜の性能が向上する可能性は十分にあり,ちょっと落ち着いてはきましたがまだまだ新しい膜素材が開発されている状況。現在のところ(2005年)もっとも有力なのはPVDF(ポリフッ化ビニリデン)の膜で,表層を密に,基層を粗にすることでファウリングしにくくするような設計も可能だとのこと。長期的に見れば,現在よりもさらに有力な膜素材や膜構造,装置などが開発される可能性は十分にあります。 3)膜処理に適する水質 膜処理がもっとも得意とするのは懸濁質の除去です。従来型のろ過水と比べると,濁度,大腸菌群,一般細菌といった水質項目で明らかに優れた結果が得られます。一方,緩速ろ過によるアンモニア性窒素や微量有機物除去,急速ろ過による色度やヒ素,マンガン除去といったような,付帯的な除去性能はありません。 膜ろ過法の導入を検討される方に,適応水質の目安を示します。ただし,自己調査なのでうそかもしれませんよ。(^o^)...もちろん,この部分の蓄積こそが技術力であり,コンサルやメーカーの競争力の源泉であるわけです。 なお,以下はすべての膜処理で同様に考えるべきことですが,やはり圧力が高い装置ほどリスクは大きくなるように思います。ですので,ROとかNFとかの場合,より慎重に対応を検討ください。
4)運転管理 膜処理施設は適切に運転しなくとも処理水質には影響しにくい点で優れるといえますが,適切な運転や設計がされなかった場合は維持管理費の増加という形で影響があらわれます。運転管理上のポイントについて,小ネタ関係を中心に示します。
5)耐用年数と修繕 膜モジュールの耐久性について手近な範囲で調べました。 まず,当初は一般に,有機膜3年,無機膜7年で計算しており,膜ろ過法Q&A((財)水道技術研究センター)でした。現在では,膜の性能は向上や知見の蓄積により,有機膜3〜5年,無機膜10年程度(メーカー表明では15年程度)が通り相場になっているようです。(水道水質辞典) もう一つ大きいのは,膜モジュールは逆洗浄や薬品洗浄の頻度,閉塞による汚染の度合いなど使用条件によって実際の供用時間は非常に影響を大きく受ける点で,半年程度でモジュールの交換が必要になったケースから,供用開始以降8年経過しても(ほとんど日本に膜が導入された当時からずっと)モジュールの変更の必要がなかったケースまで様々です。 ただし,少なくとも当初は,3年スパンでの交換を前提として予備モジュールを保管しているケースが多く,浄水継続に問題がなくとも3年程度で一度交換する,といった話も聞いております。また,カタログスペックは上記のとおりでも,乾式保管であれば供用開始してからとなりますが,湿式保管であれば製造され保存液が封入された段階で耐用年数の費消が始まるそうで,現実論としては影響があるものと思われます。 モジュールだけでなく,膜ろ過装置全体での耐用年数については,神奈川県の監査事例として,浄水処理施設とみなした58年の償却期間は不当で,20年程度とみるべき,という意見がだされたことなどを鑑みるに,水道用機械設備としての法定耐用年数である16年を採用するのがとりあえずは適当ではないかと考えられます。 また,膜モジュールで最も普及している中空糸方式の場合,膜の破断〜膜が破れてしまうこと〜の対策をどのように行うか,という問題についても検討しなければなりません。経験的に,中空糸膜モジュールで発生する破断は1モジュールあたり0〜2本/年程度,エアバブリングのように物理的に膜に刺激を与える装置では高めに出ます。ちなみにセラミック方式は破断しませんが,モジュールそのものが脆いので扱いによっては欠けたりすることもあるようです。 ただ,確率論からいって,1本や2本程度の破断があったとして水質的には致命傷ではないですし,運転の条件を濁度0.1度に設定して,若干の破断リスクは許容する,という方法が趨勢のようです。他の処理,主として急速ろ過方式が,確率処理であることを考慮すれば,特段の問題はない,というのがコンセンサスかと。 破断検知は,予備的には濁度0.1度といったレベルでの検知で行いますが,パーティクルカウンタ,即ち粒子測定方式を採用することもあります。もちろん,この場合はどうしてもコストは高めになります。破断した中空糸の検出は空気を吹き込むことによって行い,その修理は,モジュールの運転を一旦停止し,その中空糸のアナを塞ぐことによって行うのが一般的なんだとか。 6)膜ろ過施設メーカー すでに普及期に入ってきましたので,膜ろ過設備の性能競争も始まっています。具体的には,流束(フラックス),つまり,単位面積に対して水を流す能力が如何にすぐれるかで勝負をしている状況とのことです。 膜ろ過施設の場合,処理水についてはあまり差がないので,前処理や原水水質の適合性などのエンジニアリングで競った結果は,どの程度の期間膜ろ過設備を継続運転できるか,に顕れます。要は,膜単体安くてもあまり意味はなく,システムとしての調和がしっかりとれていれば,実際のライフサイクルコストを低く抑えることができるでしょう。 ただ,たまに気になるのが,結構派手な前処理設備がセットになってるケースです。必然なのかどうなのかについてよく検討しましょう。膜モジュールやメーカーさんに関する情報は,このページの最初に示したサイトに詳しいです。 7)膜モジュールとメーカー 膜モジュールとは,膜ろ過の根幹をなす,ろ過膜に水を通すための装置をいいます。モジュールとは「工業製品などで組み換えを容易にする規格化された構成単位」の意味ですから,モジュール単位で設計や交換を行うことにより,膜処理施設のメンテナンス性を向上している,ということです。 膜モジュールは各社の設計思想に基づき様々なものが提案され,個別製品化されています。代表的なパターンやちょっと変わったものなどを,膜ろ過技術セミナーの際に見せてもらった品から紹介いたします。 ただ,どの方式が優れているかのコンセンサスはまだありませんので念のため。 膜の性能の今後ですが,膜ろ過流束を高めること,高密度化(限られたスペースに詰め込む),数千トンクラスから数万トンクラスに向かう範囲でのスケールメリットなどがその鍵を握るとされています。
膜ろ過モジュールで現在最もポピュラーなのが,中空糸と呼ばれる,真ん中に孔の空いた管条の膜を束ねて使用する方法と思われます。除濁膜だけでなく,ナノろ過膜(NF膜)や逆浸透膜(RO)でもこの方式が最もポピュラーです。 この方式のメリットは,高い圧力をかけつつ,表面積をとれるところかなと思います。他にもあるかもしれませんけど。 右の写真で凧糸のように見えるのがそれぞれ中空糸で,この一本一本の中に原水を通し,外側にしみ出て来る水を集めて処理水とする,内圧方式が多いですが,各糸の外側に原水を通して糸の中にしみこんで来る水を集める,内圧方式もあるようです。
右写真も中空糸を用いた膜処理の例ですが,先ほどのモジュールと異なり,中空糸膜を原水槽の中に浸し,外部からしみこんでくる水をろ過水として取り出す方法です。これを外圧方式といいます。 この方式の売りは,既存の池などスペースを選ばず設置しやすいことかなと思われ,そのような使い方の提案がなされているようです。
膜ろ過モジュールのうち,主としてMF方式の無機ろ過膜の例がこれ。高度に管理された素焼きの焼き物,といった雰囲気ですね。有機膜と比べて機械的強度があり,耐用年数が長い,というのがメーカーさんの売り文句のようです。 もしかしたら,触媒担体としての使い方や,有機溶媒のろ過など,水処理以外のところでも強みを発揮するのかなぁ...この辺はよくわかりませんが。
最後はちょっと変わった新しい膜モジュールの例。平膜,すなわちシート状の膜を加工してストロー状にし,これを束ねて膜ろ過モジュールとして使用されている例です。 なお,膜モジュールは現時点では各社各様に製作されており,互換性は基本的にないようです。ただし,この点については現在,水道技術研究センターなどが中心となって,規格策定のための検討が進められ,成果も出た模様。チェックしてみてください。 【備考】 (3)膜設備の導入事例1)導入事例など 膜ろ過施設も研究と導入が本格化してから約10年になり,様々な施設が実際に稼働するようになってきており,実際の導入事例もいろいろ見られるようになってきました。
計画上水量14,400m3/日は除濁膜としては平成14年7月現在で日本一の規模です。施工はオルガノ(株)さんで,20本のモジュールを有する系列が6系入っており,将来2系追加できるようになっているとのことでした。特徴的な点としては,規模のほか,水源の濁度が比較的低いこと,排水処理法の効率化についての研究も行われていること,などです。 2)導入実態 (財)水道技術研究センターでは,平成3年からMAC21,平成5年から高度MAC21という産,学,官共同の国家プロジェクトによって水道用膜ろ過施設の技術開発研究・普及を進めてきました。現在も高効率浄水技術開発研究(ACT21)のなかで「膜ろ過法の新分野への適用技術に関する研究」を行っていると共に,技術支援事業として「膜ろ過施設導入支援」,「膜ろ過装置性能調査」を継続しています。 このような状況から,センター会員を始め,各方面から「膜ろ過施設導入の実態把握・公開」の要望が多く,これに答えるべくACT21参加企業46社の協力を得て調査を実施し・集計結果を公開されています。 件数ではやはり小規模が中心です。中央値で500m3/日程度の処理水量が一般的ということになりましたが,処理水量別では1,000m3/日以上の施設も多数稼動しているようです。また,年度別でみると,平成11年度を最大に増加,その後も施設の計画件数は堅実に推移しています。 県別の施設数では中部地方に多く見られ,平野部の多い都道府県では少ない傾向があります。膜処理施設を実際に見に行くと,維持管理の大変なところが多いので,そのような地域を多く有する自治体での導入例が多いのではないかと考えます。四国や九州での導入事例が少ない理由については調べてみたいところです。 平成19年5月21日付けのJWRC水道ホットニュースによりますと,平成18年度末時点で全国の膜ろ過施設は586件,施設能力は75万m3/日をこえているとのことです。 3)海外での導入実態 海外企業でも日本以上に膜処理設備の導入は盛んです。よく言われるのは,海外企業が提示する膜コストが日本企業のそれよりもかなり低いことです。この違いについて議論した結果ですが,薬品洗浄の頻度,設計フラックスなどの使用条件がかなり異なり,同じ膜モジュールを違う使い方で使っているように思われます。薬品洗浄のコストは,排水の規制や人件費の問題も影響するので,国の事情にも依存するでしょう。また,民間競争などによってリスクを大きくとることによりコストを縮減している可能性もあります。 長期的には,相互に技術の交換が行われ,海外と国内で管理レベルが同じになり,コスト差もなくなるだろうと考えられます。 4)膜処理の将来性 膜処理の将来性については,各社ともに相当明るい展望をもっているようですが,私自身も,かなりの点で同意であります。膜処理の将来性を一言でいうと,非常に機械的に制御しやすいので省力化しやすいこと,技術的な発展の余地が大きいこと,の2点でしょう。 さらに,単価は導入開始当初から10年で1/3程度までは低下しました。今後の技術動向によっては,さらに下値余地もあるそうで,これが進めば展開が開ける可能性はあります。 さらに,膜技術がある前提で水道システムを組み替える可能性についてもその必要性が指摘されています。これについては当方もいろいろ構想を練ってみたいと考えております。ま,そういうことに取り組むだけのスラックをどうやって確保するかが当面の課題ですね。 【備考】 |
目次膜ろ過法 備考・出典水道水質辞典などより。 更新履歴
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