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消毒 Disinfection

 水道が始まったきっかけの一つは防疫にあります。消毒は,実は水道の存在意義そのものであるといっても過言ではないほど,重要な役割を担っているのです。しかし,疫学的な危険性が封じられるに従って,塩素処理を中心とする消毒の副作用について注目されるようになってきました。狡兎死して走狗煮らるとでもいうべきか,最近では塩素消毒の欠点ばかり強調されているような気がしてなりません。消毒に関する情報を取りまとめます。

【参考】


消毒の定義

 水道の防疫は消毒により行うことになっていますが,「消毒」という言葉には実は厳密な定義があります。類似する処理との違いは以下のようになります。(以下,参考文献引用)

  • 消毒
     病原微生物と考えられるものの感染力をなくすこと。水道における塩素消毒がこれに相当します。医療器具などの消毒手続きを見ると確かに「消毒」という訳語がしっくりくるんですが,水道で消毒という言葉を使うことが適当かどうかは個人的には議論の余地があるように思います。
  • 滅菌
     微生物の生活力を物理的または科学的手段で奪うか,フィルタなどで除去して,完全に生きている微生物をなくすこと。微生物が病原性であるかどうかは問いません。細菌検査のための準備として行う器具や培地の滅菌がその例です。フィルタで除去する場合を除菌として区別する場合があります。
  • 除菌
     所定の安全を確保する目的で,微生物を移動し,あるいは水や空気の媒体だけを移動して微生物を除くことで,生活力を奪うものではありません。沈殿,ろ過などがこれに相当します。
  • 殺菌
     微生物の生活力をなくすこと。滅菌,除菌の場合と同様に「菌」は微生物一般を指し,芽胞,かび類,ウイルス等を含めることができますが,厳密にいうときは「不活化」といいます。活性を奪うことは「死」とは必ずしも同一ではなく,検査技術上から見て殺菌操作が必ずしも死に至らしめているか確認はできませんし,生活力はなくなっても死んでいない場合があります。時には再活性化することもあります。
  • 防腐
     微生物の発育を抑え,目的の「もの」の変化を防ぐこと。食品の変敗を防ぐために防腐剤を添加するのがその例です。

 水道のように,存在確率の低い病原性微生物に対する予防的消毒は,実は「防腐」に近いとの指摘があります。よく考えると,巷にあふれる「除菌商品」てのは定義的に間違い,ってことなのかな?まあどうでもいいですけど。

【備考】


消毒法の種類

1)消毒手法あれこれ

 消毒の手法には,塩素,塩素系の消毒剤,オゾン,といった消毒剤を利用するもの,紫外線を使用するもの,膜などにより菌類を除いてしまうもの,などがあります。最近では,従来からの消毒手法では不十分な原虫類の汚染も問題になりつつあります。今後は消毒の方法も大きく変わる可能性があります。

 日本では水道の消毒方法としては最終的には有効塩素が0.1mg/L Cl 以上存在していることが必要とされています。このため,途中の水処理ではその他の消毒剤が認められている(最近認められたばかりですが)ものの,最終的には必ず塩素消毒を行います。各種消毒法の詳細については別ページを参考してください。

  • 塩素消毒
     塩素消毒,次亜塩素酸に関する情報。派生法としてクロラミン法もあります。
  • 二酸化塩素消毒
     二酸化塩素による消毒について事例の紹介など。
  • オゾン処理
     オゾンによる処理も消毒の一種です。クリプト対応など塩素より強い酸化力を持ちますが,残留性は低くなります。副生成物の問題は塩素消毒よりも複雑です。
  • 紫外線消毒
     紫外線による消毒について。
  • 膜処理
     膜によって細菌類を除菌してしまう方法も消毒法の一つ。飲料工場などで使用されます。

2)塩素消毒の功罪

 詳しくは塩素消毒のページを見てもらえればいいのですが,そのほかに,他の消毒手法との比較で少し書いてみたいと思います。

 塩素消毒の技術が優れているところは,塩素濃度×接触時間で,細菌等に対する消毒効果が積分で保障され,計測できる点にある,という識者意見があります。膜やUVは,処理した瞬間の効果が明らかでも,残留性でチェックできません。平たく言えば,たとえば目の前にある水が消毒されたかどうかを簡単に計測する術がないのです。ここをどうやって埋めていくのかが,あたらしい消毒手法の課題である,というわけです。

 最近は目の敵にされることの多い塩素ですが,水道に起因する消化器系疾患は,これによってほぼ撃滅されました。北米などでは時々O-157の禍が話題になったりしますが,日本では水道起源のO-157はまず発生し得ません。

 識者によりますと,この塩素濃度は,戦後,進駐軍が提示したものだそうで,軍艦の疫病を防ぐために設定されていた数字を持ちこんだらしいとのことです。軍艦で疫病が流行るとなると,戦力的にはもう撃沈されたのと同じですから,かなり厳しい消毒効果が必要。この話のとおりであれば,少し厳しい目の消毒思想が日本の水道の根底に植え付けられた,ということになるでしょう。

 この,塩素が果たしている役割については,もっとまじめに研究してみる必要があると思います。日常使用する水に適度に消毒剤が入っていて,常に生活環境が消毒されている効果は,結構大きなものがあるのではないかと,個人的には思ってます。たとえばSARSが日本に入ってこないこととか...ねぇ。誰か研究してくれないかなぁ。

 まあ,大戦時代の消毒と現代の消毒は,その意味合いが異なってきているのも間違いないところ。消毒ツールが増えたところで,これをどうやって活用していくかどうかが課題ということなんでしょう。

3)世界の消毒方法あれこれ

 世界的には,消毒の思想はもっと柔軟なようです。

 たとえば,視察で訪れたドイツでは,6,700箇所の小さい規模の浄水場が各地域の自治体にあるそうですが,消毒の方法は,箇所数に対して,小さな自治体を中心に55%が不消毒,20%塩素,15%二酸化塩素,10%紫外線となっているそうです。消毒が必要かどうかの判断は水源の井戸や泉を検査する際に行われ,必要なしという結論がでれば規制としても消毒は不要となります。

 また,北欧の某浄水場の管理担当者は,検査担当部局に言われて塩素を投入しているが,本当は必要ないんだ,と主張していました。北欧は全般に水温が低く再増殖の心配がないとはいえ,紫外線消毒のみの浄水場はあるようですので,単純に彼独自の見解とは言えないでしょう。

 実は,ヨーロッパ諸国ではドイツ軍が毒ガスとして塩素を使用したことによる悪いイメージが強く定着していて,伝統的に塩素の使用を嫌う傾向にあるのだそうです。このため塩素消毒は主として米国,及び米国の影響を強く受けた国に広がった消毒法となっています。

 もう一点,2001年,米国を襲ったテロによって,「人為的汚染への対処」,という困難なテーマが消毒に課せられるようになったことも,特筆すべき事項でしょう。海外では,急遽投入塩素濃度をそれまでの3倍にしたところなどの話も聞いたことがあります。

 海外の動きを含め,今後の展開については注目しておく必要がありそうです。

【備考】



目次

消毒の定義
 水道における消毒の意味について。

消毒法の種類
 消毒法の種類と選択について。外国では日本より柔軟なようです。


備考・出典

 水質衛生学 金子光美 技報堂出版


更新履歴

  • 120815 新様式で作成。


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