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地下水水源の保全 Ground water Conservation

 水源の保護と汚染についてまとめるページを分離し,地下水水源(井戸水,湧水)についてこちらに取りまとめました。

  • 表流水水源の保全
     表流水水源の保全に関する総論。個別方策についてはこのページに別項を作成しました。

【参考】


地下水水源の保全

1)地下水水源の概要

(1)地下水水源の特徴

 地下水は天然の資源であり,同時に地域の共有の財産です。無秩序で利己的な開発は厳に慎まなければなりません。

 一般に,地下水水源の水質は表流水と比較すると安定しており,降雨などの影響による変化は小さいのが普通です。水質のみならず水温が変化しにくいことも特筆すべき事項です。しかし,これは,一旦汚染されると容易に回復しないことの裏返しでもあります。地下水は土中での滞留時間が長いために,土壌由来の溶解性成分を含んでいる場合や,温泉成分を含む進出水との交換がある場合があります。その対処は表流水によるの汚染よりも難しいことが多く,処理に高いコストを要したり,最悪の場合では水源自体を破棄したりすることが必要になってくる場合もあります。

 地下水の異常は通報などを得にくく,維持管理担当者が自ら行わなければなりません。異常が発生しにくく監視体制が幾分緩やかなこと,浄水工程が消毒のみである場合が多く,容量の余裕が小さい傾向があることなどから,異常の発生が浄水の異常に直結しやすいことに配慮しなければなりません。

(2)地下水取水と地盤沈下

 地下水の涵養能力を超える取水を行うと,帯水層内の間隙水が減少,地盤が圧密することにより地盤沈下が発生します。地盤沈下は決して過去の問題ではなく,渇水時などに非常用として地下水を取水すると,センチ単位での地盤沈下が計測されることは現在でもあります。例えば平成6年度は全国的に渇水被害が発生,相当の地盤沈下が観測されました。

 地盤沈下が発生すると,基盤面に対してその上に存在する帯水層が不均等に収縮するため,地面が歪んだり,あるいは基盤面に固定されている建物の浮き上がり(地盤は沈下するが基盤が沈下しないため,建物が浮き上がったように見える)が発生し,構造物への大きなダメージが広範囲で発生します。また,長期的には浸水のリスクが高まるため,浸水による被害懸念の増大や,堰堤の嵩増し費用の発生などの影響がカウントされます。

(3)地下水水源水質の傾向

 一般的な地下水水質の異常とその原因には以下のようなものがあります。

地表排水との交換  生活排水を含む地表水との交換があり,一般細菌や大腸菌群数などが高い場合。結果として,蒸発残留物や過マンガン酸カリウム消費量の値も高くなる。
 浅井戸である場合や洪水後に発生する一過性のものもある。
 防疫のための消毒による対応はもちろんであるが,クリプトなど塩素消毒では対応できない問題が発生する可能性もあるので,汚水の浸入経路を調査し,その進入の防止を検討すべきである。
鉄,マンガン  土壌由来の鉄,マンガンが存在し,これが原因とみられる色度,濁度が検出される場合。花崗岩性等深層火成岩の地層にしばしば見られる。除去技術が確立されていて比較的対処は容易である。
深層水との交換  塩素イオン,硬度,蒸発残留物,硝酸性窒素など,主として無機性のイオン類が検出される場合。まれに工場排水の場合があるが,深層地下水との交換がもっとも疑われる。また,非常に多く見られるのが地下海水の侵入である。
 項目が限られると対処は可能だが,鉱山などの進出水の場合は対応が難しい場合がある。
火山性溶解物  火山性地下水起源の硫化物,ホウ素,ヒ素,フッ素,その他金属類などが存在するケース。鉱山浸出水などで高い値が出る場合があり,水源の性格について十分聞き取り調査のこと。過剰取水によって引き起こされることがあり,バングラディシュでのヒ素汚染が有名である。
 除去を想定すると非常に高度な対策が必要になるが,低い値であるれば,水源調査の頻度を確保しつつ注視,他水源との希釈などで対応していくことも対応方法のひとつである。どうしても高い値が出る場合は井戸の廃棄が現実的である。
有機塩素化合物  トリクロロエチレン(金属洗浄溶剤),テトラクロロエチレン-ドライクリーニングなどの有害有機物が検出される場合。上流域での人間生活が原因と考えられる。工場など汚染源の特定が可能なケースもある。
 有機塩素系化合物は,速やかに地中を浸透し,滞水層の上部や底面,土壌間隔に滞留し,徐々に洗い流される。地下水の流速が比較的遅いこと,揮発しにくいことから自然浄化はあまり期待できない。水源での除去は可能であるが,地下水相からの除染が必要なケースもある。
窒素  亜硝酸性窒素,硝酸性窒素が高いケース。自然由来の場合もあるが,比較的水源域が広い場合など,生活排水や農業用の肥料が起源の場合がある。
その他  堆砂や鉄バクテリアの混入などが取水水量が急に変化した場合に発生するケース。一過性であるが対策は必要。

(4)地下水水質の基準

 平成6年11月には環境庁(当時)より汚染源特定技術,除染技術の暫定指針が発表になっています。

 これを受け,平成9年3月,行政目標である地下水の水質汚濁に係わる水質基準が設定されました。その規定は,地下水の常時監視,有害物質の地下浸透禁止,汚染地下水の浄化,事故時の措置,で構成されます。この改正では,汚染された地下水の浄化制度が導入されました。つまり,知事が汚染された地下水の浄化を,汚染の原因者に命ずることができるようになったということです。

 地下水の汚染が見られた場合の対応としては,各種調査による汚染源の特定,地下水揚水法,土壌ガス吸引法などの浄化対策,などの手順が考えられます。特に土壌汚染の浄化対策については近年感心がたかまっており,事業化する企業も出現してきています。

 また,浄水享受権に基づく訴訟なども行われている様子です。

【備考】


2)地下水水源の保全

(1)地下水の涵養

 地下水の涵養とは,水を地下に投入して地下水の量を増やそうとする行為です。地下水の取水を抑制することで,地下水の回復を図ることを指す場合もあります。

 地下水の涵養の主たる方法は雨水浸透で,透水性舗装や雨水貯留槽の整備への補助,雨水調整池からの涵養などの事業が実施されています。また,水田など自由水面を有する田圃の地下水の涵養機能をもっと高く評価すべきとの声もあります。

 地下水の涵養のために積極的に水を注入する行為は,国内では基本的に実施されていません。が,米国,特にカリフォルニアなどでは一時積極的に実施されていました。日本では,地下水を涵養する場合,十分に清浄な水を供給するのが普通ですが,特に米国では,淡水化で発生する濃縮塩水や下水処理水,廃水などを投棄に近い形で投入する場合もあります。このへんは国民性の違いですねぇ...また,砂浜の地下を利用して地下水塊として原水を貯留する(塩水に比較して密度が低いため,塊状の真水層ができる)などのアイデアもあるようです。

(2)地下水利用専用水道

 水道界が一丸となって開発した水道用膜処理。しかし,これと地下水取水を組み合わせて専用水道化し,大口需要者のコスト縮減を後押しする業者が出現し,水道事業体と顧客の争奪戦が始まっています。日本水道協会が実施した実態調査(0503)では,以下のような主張がなされています。

  • 地下水利用の規制は地盤沈下防止の視点での規制があるが,地下水を私権の範囲で利用することそのものに関する規制はない。ただし,少量ならともかく大量の取水は公共財産の収奪に他ならないという解釈もあり,法的にはグレーゾーンに近い。
  • 表流水の水利権で見ると,「例えばバケツ一杯の水であればだれも文句を言わないが,大量に引き入れて使用することは法的にできない。」といった表現で,地下水についても大量占有は道義的に問題があるのではないか,という意見が規制側からは提示されている。
  • 公益的な視点から実施されている雨水浸透事業や水源涵養税など,水文環境改善への取り組みにも影響する,デリケートな問題をはらむことについては十分に認識しておく必要がある。

 つまり,上水道事業者としては,経営に影響を与えることが確実な専用水道化に危機感を持っているものの,環境法制の不備から地下水の占有に関する明確な規定がないため,手をこまねいている状況,と言えるでしょう。

 そもそも「水利用の基本法」がちゃんと整備されていないのが根本問題なんですけどね。

 あと,ちょっとしたメモとして。地下水専用水道の水質面でのリスクとしては以下のようなものがあるとのことであります。

  • 残塩の管理が難しく過剰塩素になりがちになる。人工透析での事故の例などが有名。
  • アンモニアが含有する場合があり,さらに制御が難しくなる場合がある。

(3)地下水水源の保全

 地下水を含む地盤環境の保全については,環境省が積極的に取り組んでいます。地下水の危機は世界レベルでは頻発しており,これを取り上げるサイトも多数あるようです。

【備考】



目次

地下水水源の保全
 地下水水源の保全の必要性と傾向などについて。


備考・出典


更新履歴

  • 120814 新様式で作成。
  • 110424 地下水と表流水を分離。


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