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水道水って危ないのか What makes you feel tap water risky?!

 水道水が危ないとかいう風説が猛威を振るっております。では実のところどうなのか。怪しげなセールストークは氾濫しているのに,この点についてしっかりと反論しているページがなかなかないのが気になりますので,暴走や誤解を覚悟の上で,ちょっと数字をひねってみました。


水道水は危ないのか

1)危ないかどうかは,なかなか証明できない

 「水道水が危ない!」という話は良く聞きます。塩素消毒によって妊婦の流産率がどうとか,トリハロメタンが発ガン性があるとか,もっともらしいことを書いてあります。

 でも,専門家に聞いても,「大丈夫」というだけで,あんまり詳しく教えてくれません。なぜかというと,実は,「まず大丈夫」であることは経験的に知っていても,「どの程度大丈夫なのか」「完全に大丈夫か」については,証明が大変難しいからなのです。歴史で最も難しいのは,「存在しなかったことを証明すること」ですが,これと同じです。

 まじめな学者や技術者は,この点をよく知っています。自分が分からない部分は「わからない」といい,よく分かっている部分は専門用語や数字を駆使して教えるものの,その話の内容や意味が聞いている方には理解できない。よって,どうしても,安全性に関する情報というのは,あんまり巧く伝わらないのです。

 ちなみに,食品などではよく「安全宣言」が出ますが,宣言を出しているのは政治家や商売人が多いように思います。「存在しないことを証明すること」の難しさを知っている専門家にとっては,安全宣言はおいそれとは出せないものなのです。

 とはいえ,工学的には,おおよそ1/1,000,000の確率以下で発生する事象は無視していいことになっています。この基準で照らすのであれば,まず大概のケースで,「水道水は安全である」と言ってしまって問題ないでしょう。(大概のケースとつけないと不安なあたり,私もエンジ二屋でありますが)

 以前,「水について書くと本が売れる」という話を某出版社の企画の人から聞いたことがありますが,この辺も背景にあるのかもしれませんね。ま,これはたぶんに憶測なので省略。

2)ではどうするか

 危険性について考えるとき,例えば他のリスク要因と比較してみるというのがやりやすい方法です。他のリスク要因についても,前提条件等不安を抱えているわけですから,「絶対的評価」を「相対的評価」に換えることで,評価の基本レベルが揃おうというものです。

 ここでは,このような例として,水道水の急性毒性について,最もリスキーと考えられる成分を取り出し,その比較をしてみることにします。急性毒性と慢性毒性の違いやマウス試験と人間を対象にした毒性の違いなど,単純化しすぎの嫌いはありますが,数字で比較してみないとなかなか分かってもらえないでしょうから。

1 まず,タバコ,お茶,水道水の最も代表的なリスク物質の毒性をLD50で示します。LD50とは,簡単に言うと,「ラットが半分が死ぬ摂取量」です。

  • タバコのニコチン LD50 50mg/kg(ラット)
  • お茶のカフェイン LD50 200mg/kg(ラット),2000ってのもありますが。
  • 水道のクロロホルム(トリハロメタンの最も代表的なもの)LD50 900〜2000mg/kg(ラット)
  • 食塩(オマケ) LD50 4500mg/kg

 数字が小さいということは少量で死ぬということ。つまり,ニコチンやカフェインの方がクロロホルムよりもずっと強力な急性毒であることが分かります。水道水でガンになった人ってのは...動物実験でも寡聞にして知りませんけど。

2 次に摂取量を見てみましょう。

  • ニコチンの含有量の目安
     一本あたり 10〜20mg程度
     吸った場合の煙 0.1mg〜2mg程度
  • カフェインの含有量の目安
     カップ1本で200mLくらいでしょうからこれを乗じてみます。
     コーヒー 40mg/100mL カップ一杯 80mg
     紅茶 50mg/100mL カップ一杯 100mg
     せん茶 20mg/100mL カップ一杯 40mg
     玉露 160mg/100mL カップ一杯 320mg
     番茶 10mg/100mL カップ一杯 20mg
     ウーロン茶 20mg/100mL カップ一杯 40mg
  • クロロホルムの水道水の含有量の目安
     例えば,水質基準違反(!)の水を2L(!)を飲むとき,
     水道水質基準は0.06mg/1000mL,摂取量0.12mg

3 では,体重70kgの成人に上の比率を乗じて,致死量と摂取量の比をとってみましょう。

  • ニコチン
     半致死量 3.5g
     摂取量 ライト(0.3mg)を20本吸って6mg
     一日の摂取量は半致死量の1/580
  • カフェイン
     半致死量 14g
     摂取量 紅茶1杯で100mg
     一日の摂取量は半致死量の1/140
  • クロロホルム
     半致死量 63g
     摂取量 ビアジョッキ大を4杯一気飲みで 0.12mg
     一日の摂取量は半致死量の 1/525,000

 いかがですか。水道に含まれる毒性物質のリスクは,タバコやお茶などと比べても,ずっと低いレベルであることは理解していただけると思います。

 もちろん,この数字は,あくまでも一つの目安の数字をつなぎ合わせたもので,その正確性や適用範囲などを考えれば,これほど単純ではありません。他にも様々な要因が複合しますし,なにしろ人体実験をするわけにいかないので,動物実験や統計的な調査を通じて様々な推計や分析をしながら,これらのノウハウを構築する努力が日々行われているのです。

3)健康食品の方が...

 個人的には,安全性についてはむしろ「健康食品」に関する情報の方が胡散臭く感じますね。若干事例を示しましょうか。

  • 厚労省のまとめによると,○国製の健康食品をめぐって45種類で678人の健康被害事例を確認,うち3名が死亡している。(日経新聞,ただし日付は失念。多分H16頃?年間データ)
  • ウコンと肝機能障害の間に因果関係が疑われる例が厚労省研究班で11例報告。肝機能がよくない人だからこそ肝機能の改善効果を期待して摂取するわけで,もともと肝機能が悪かった事例とはいえないと思う...(産経0410頃等)
  • 健康食品「アガリクス」製品のひとつに発ガン性を促進する作用が認められたとして,厚生労働省は13日,販売会社に販売中止と自主回収を要請。(経060214)他にもアガリクスは肝機能障害の疑いの指摘などもあるらしい。ま,すぐにどうこうってことはないですけど,健康になるために高い金を払って病気になってたら救われませんな。
  • 日経新聞060507,厚労省が「いわゆる健康食品の摂取が原因と疑われる健康被害の報告例」をまとめたとの由。3年9ヶ月で被害363人,死者も出ているとか。多くが肝機能障害であるところを見ると,明らかにこれは「毒」ですな。ちなみに,このリストには医薬品成分が検出されたもの(未承認医薬品に分類)は除かれているので,実害はもっと大きいと考えるのが正解でしょう。

4)意見

 前述のように,技術者や科学者は商売人と違って,正確でない数字についてはアナウンスしたくないので,「トリハロメタンに毒性がある」ことを否定しませんし,例え微細なリスクであっても,それを低減するために,高い目標を設定しています。毒性がないわけではないのですし。

 が,リスクレベルの話を全くしなければ,現在流布されているような誤解が水道水不信のネタになることは必定。今回の記事は,このような現状に対する一つの疑義投げかけと思っていただければ幸いです。

 飲み屋でオネィちゃん相手に,タバコ片手に「水道水が如何に危ないか」を力説しているオィチャンを見たことがありますが,どう考えても,あんたが持ってるタバコや,アンタが飲んでるアルコールの方が,発がん性だけをとってみても,リスクが大きい物質です。これに比べたら,石田三成の逸話(関が原の合戦後に捕らわれ処刑される前に「柿は胆の毒だから食べない」といって断った...創作との説もありますが)の方がまだましのように思えますな。

【備考】



目次 

水道水は危ないのか
 水道水って危ないのか?


備考・出典

  •  とりあえずメモ作成から。

更新履歴

  • 120913 新様式で作成。


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