水道技術経営情報
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水道屋の目で見たボトル水 Bottled Water

 ここは,ミネラルウォーターを中心として,ボトル水と水道水との関係を考える場所です。ボトル水という商品が成立するのはどういうことなのか。おいしい水とは何か。水を供給する水道として,避けて通れない重要な命題です。


ボトル水と水道

(1)ボトル水とは

1)ボトル水の種類

 ボトル水(Bottled Water)という言い方は,水道サイドからみたミネラルウォーター類などの呼び方で,水道管ではなく,瓶詰めの形で供給される水を言います。一般にはミネラルウォーターという言い方がわかりやすいのですが,「ミネラルウォーター」「ナチュラルウォーター」「ボトルドウォーター」などという言い方には厳密な定義があります。ここでは「ボトル水」で統一します。

2)水道とボトル水

 1980年代後半,ボトル水が本格的に販売され始めるまで,日本では売れるはずがない,というのが水道界の意見の趨勢だったと聞いております。日本の水はおいしい。信仰に近いその思いと,ボトル水の高額さ,そして実際に飲んでみた味(後述)から,そう考えるのは実際不思議ではありませんでした。

 しかし,現在では,飲用として,そして時には炊事用として,ボトル水は確固たる地位を得ております。水道の供給単価は1m3で100〜200円程度,ボトル水は1.5L入りでそんなモンでしょうから,500〜1000倍のコストがかかるにもかかわらず,です。まあ,「信用を買う」ってのはそういうもんでしょう。値段的には無駄でも。「資本主義経済の成熟度は,意義ある無駄をどれだけ持っているかで測れる」という話も聞いたことがありますし。

 私としては,水道界としても共存や連携を図る必要があるのではないかと考えています。特に非常時において,飲料用としての水の確保の負担が大幅に緩和されたことは,特筆に価するでしょう。実際,阪神大震災の時,カナダのウォーカートンでO-157禍が発生した時,喫緊の飲料用水として,どうしても必要な生活用水の代替として,ボトル水は重要な役割を果たしました。最近ではこの機能を全面に押し出してい例も見られます。

3)水道局製作ボトル水

 最近では,水道局がみずからボトル水を製作する例も多数でてきております。皮切りは,非常時用の備蓄水を兼ねた,PR用の缶詰水だったようなんですが,その後,名水に匹敵する優れた原水を擁する水道の水質PR,高度浄水処理を導入した水のPR,その他イベントに頒布用に,などの目的で,水道局製作のボトル水が使用されています。

 そういや,サンデー毎日の2004年9月26日号に,大「利き水大会」として,全国の水道事業体作成ボトル水の呑み比べ記事を掲載してました。

 当初、当サイトではHPに詳細が載ってるのを紹介していたのですが、水道協会がボトル水の紹介サイトを作成されたようなのでそちらを紹介することにします。

 下は水道協会に展示されている全国各地の水道事業体製作のボトル水です。

  • NEWater

 シンガポールいったときもらってきました。下水を処理して飲めるようにした、というのが売り。味は普通ですが。

 さらに,調べていてこんなサイトもみつけました!これはおもしろかったです。

 これらの活動の裏方さんにもお話を聞いたりする機会がありました。正直なところ,かかったコストをペイさせるのがせいぜいでそれすらきついというのが正直なところだそうですが,PR用の広報材,あるいは非常時用と考えてそちらに意義を見出すのであれば面白い活動でしょう。ご担当の苦労はしのばれますが...

【備考】


(2)ミネラルウォーターは優れた水なのか

1)ボトル水は安全か

 一般に,ボトル水はおいしい,健康にいい,などのイメージがあるようです。また,ボトル水の品質は信頼できるというイメージがある人が多いと思います。実際のところどうでしょうか。

 2001年5月3日,世界自然保護基金(WWF)が,ボトル水の優位性について疑問を呈する研究結果を発表しました。水道と比較してエネルギー消費と値段が非常に高いのに,水道に比較して水質などに優位があるわけではない,という内容で,ボトル水に頼るより水源域の保全にもっと関心をもつべき,という内容のようでした。私は水道屋なので,このサイトが水道寄りの主張を展開する部分を多少割り引いていただいたほうがいいかも知れませんが,技術的にはこのとおりと考えます。

 また,水道に対しては水質基準,ボトル水に対しては食品衛生法により規制されていますが,水質に求められる条件は水道水のほうがおおむね厳しく,一部のボトル水には品質管理のいいかげんなものもあるとの指摘もあります。そこまでいかなくとも,事故はたまにあるようです。たとえば,2001年6月,長野県内で販売されている「和田峠の黒耀水」にかび状の異物が混入しているとして,製品が自主回収される騒ぎがありました。

 このあたり,かなり手厳しく指摘しているサイトもあります。

 ただ,一般に消毒塩素を使用していません(これもモノによっては使ってるのですが)ので,塩素の安全性を疑問視する方には向いているでしょう。水源地域の人的活動による農薬などの汚染についても,どんなに処理しても心配な人は心配です。このあたりの分類は特に欧州産のボトル水では厳密です。

 水道水でもまれに塩素消毒の効果が及ばない原虫被害などが発生する場合もあります。特に海外には,米国などの先進国であっても日本のように基準遵守率が高くないケースがあり,比較的このような事故は頻繁に発生しています。

 また,色水など,水道の給水栓水も,様々な原因でしばしば問題を発生します。値段が500分の1以下と安いからいいんだとは言えません。もちろん。

 ボトル水の大部分は管理を十分行っていると思われますし,ボトル単位での抜き取り検査ができる分,水道水と比べて安心しやすいのは否定できない事実です。品質管理の行き届いたボトル水をちゃんと調べたうえで,飲用にはボトル水を使用する,という哲学も,それはそれで正しいと思います。まあ,水道屋としては,少し忸怩たる思いはありますけどね。

 もっとも,ボトル水でも,銀など金属イオンによる殺菌を行っている例もあります(消毒に使うくらいですから銀には当然毒性があります。詳しくは水道水質基準関連を参考のこと。)ので,個別に確認してください。また,炭酸も通常は消毒剤としての役割が期待されているものです。ミネラルウォーターという言葉は,そのまま英語では炭酸水だったりします。

2)ボトル水はおいしいか

 2001年6月7日付けの日本水道新聞報道によると,札幌市の水道水と34銘柄のミネラルウォーター類や海洋深層水について調査を行ったところ,明らかに水道水よりおいしいという評価だったのはわずか3銘柄で,大概は違いがわからなかったと報道されていました。成分の分析結果から,マグネシウム,ナトリウムの味に与える影響が明らかになったとされています。札幌という条件が結果に影響していることはあるでしょうが,一概にボトル水がおいしいとまでは言えないのではないでしょうか。

 また,一時は全国で最もまずい(臭い)水の一つであった大阪府営水道は,長年の努力を経て全量に高度処理を導入。これを記念して平成16年夏〜秋に府民5000人を対象とした利き水調査を実施。おいしいと答えた人は47.7%だったとしています(共同通信050404)。この調査では,欧州産のミネラルウォーターで45%,国内産のミネラルウォーターで55.6%が美味しいとしていますから,少なくとも,欧州産のミネラルウォーターとの支持率の差はないということになります。

 大都市でも,たとえば名古屋市の水は木曽川中流からの取水ですから,よっぽどひどい渇水でもない限り,生半可なボトル水よりもおいしいことは宣言できます。名古屋に住んで(リンク切れ)飲んでたので自信ありますよ。白状しますと,九州に在住したとき,福岡市に住まずに春日市に住んでたのも,渇水がなく水源がよいから,というのが理由の一つです。

 さらに,「ミネラルウォーター」に分類される水には,硬度成分が水道水よりも多量に含まれます。ミネラルウォーターと水道水を同じ温度,塩素濃度でのみ比べると,大概の日本人は水道水の方がおいしいと感じるそうで,硬度が味に与える影響が伺えます。おいしい水の条件については以下を参照ください。

  • おいしい水
     おいしい水ってどんな水?おいしい水の条件について掲載。

 ただ,やはり水源水質のあまりよくない水道では,特に渇水期などに異臭味が発生することがありますので,こういうときははっきりいって勝負になりません。筆者自身,実家の京都市で異臭味被害を経験していますし,夏の渇水期にはボトル水を使用することがあります。

 そして,ボトル水にくらベて味の点で不利なのは消毒塩素温度です。特に,味に最も影響を与える温度についてはどうしても不利。水道の役割から考えると,こればっかりはどうしようもありません。塩素の影響をなくし,温度を下げる手間が惜しく,かつ味の違いが気になるという人のために,ボトル水があるのですから。

【参考】



目次

ボトル水と水道
 ボトル水の定義やボトル水が安全なのか,などを掲載。


備考・出典


更新履歴

  • 120903 新様式で作成。


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