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ここでは,配水管網の検討を行ううえで重要な需要水量の変動パターンに関する知見をまとめます。配水水量は,気候や天気など,さまざまな要因により日々変化します。その最大の需要に応えることが配水施設の原則です。 【参考】 配水量の年変動1)年変動と負荷率配水水量は水道需要者の使用水量の総和ですから,少なくとも原理的には事業体側の都合でコントロールできません。このため,需要者の消費行動の影響をそのまま受けます。年間を通じての配水水量の変動は,負荷率という指標で把握します。 この負荷率とは,日最大給水量と日平均給水量との比率です。具体的には,下記の式で表されます。
年間を通じて日々変化する需要に対し,水道施設の能力は,最も需要量の多い時に不足を生じない規模とすることが原則必要です。このため,負荷率は,年間平均水量(事業規模)と最大水量(施設規模)との換算係数として,重要な役割を担っています。 負荷率は,都市の性格や年間の気象条件,配水方式やデータ収集の方法により大きく影響をうけるうえ,小規模事業体などでは,事故の発生などが特に小さな負荷率を与えることがあります。 2)負荷率の計画値の設定負荷率の設定にあたっては,大規模事業体では過去の実績の平均値を,小規模事業体では過去の実績の最低値を使用するのがセオリーと考えております。これにはそれぞれに根拠があります。 大規模事業体では,1%の負荷率の違いがそれこそダム一つ分になったりましますが,規模が大きいために負荷率のぶれ自体は小さくなります。また,このような事業体はすでに需要の伸びが小さくなったような成熟した事業体が多く,水源能力やその融通,事業力にある程度の余裕があります。このような場合は,実績の平均値を採用して,過剰な余裕が計画に影響を与えないようにすべきでしょう。 小規模事業体では,逆に負荷率のぶれが大きいですし,融通できるような多数の水源を有しません。負荷率を低くとることは,施設容量の余裕として計上されるほか,経営計画を立てるうえでも,収入に対する支出を多めに見積ることになるため,安全側であると考えられます。実際に記録された負荷率を計画値にすることが過大であるとは言えませんので,過大でない範囲で最も余裕を確保できる実績の最低値を使用することが適当と考えます。また,設計指針(1990)(リンク切れ)で掲載された計算例では最低値をもって負荷率の計画値としていることからも,発展期はこのようにして余裕を持つほうが適当であろうと考えます。 実際の負荷率は前者に該当する大都市では80〜85%程度,後者では70〜80%程度になるのが一般的です。負荷率に影響する要因としてはいろいろありますが,大きくは以下のような要因が影響すると考えられます。
なお,水道の広域化に伴って,負荷率の低減を見込むことができる可能性があります。(用水供給部分についての話で,末端事業の負荷率そのものが変化するわけではないので注意)事業規模の拡大が負荷率の向上=事業効率の増加=に資する傾向は,これまでに示した事例からも明かです...が,これを計上するスキームがなく,このような提案をできないのが残念なところです。 3)年変動の実際年間の配水水量が配水区域の特徴によってどのような影響をうけるのかについて分析した結果を示すため,十数か所の配水区のうち特に特徴的な四配水区の分析結果を示します。計算は負荷率の算定を目的の一つとしたために,平成3年7月1日から平成4年9月末日までのデータを展開しました。これらは配水区は別ですが,地域的に近く気候の差などはありません。 総じて,需要者の需要水量の典型的な変化パターンが出ていると思います。後に示す時間変動と比較してご覧ください。 ●小規模住宅地域 負荷率 67.7%団地一箇所の狭い配水区で,不確定要因によるぶれが非常に大きく現れています。年変動があまりないように見えますが,配水池に対して需要区域が小さいために,見かけ上そうなっているだけと考えます。 ●大規模住宅地域 負荷率73.1%広い配水区で,その需要者は住民が中心なケースです。個別需要者によるぶれが吸収されるため,きれいな変化を示し,週変動も見られるもののあまり顕著ではありません。盆正月の需要減少は帰省を示すと考えられます。 ●商業中心地域 負荷率 76.4%商業地域が中心の配水区域。夏期の需要の伸びが住宅地域よりも大きいようです。全体に需要水量の変動は,生活者が多い地域よりも不規則に見えます。 ●工業中心地域 負荷率 51.6%工業地域が中心の配水区の需要パターンです。週単位で需要の変動がでているのが特徴で,盆正月にはほとんど需要がなくなります。これが原因で平均の需要水量は実需の割に低くでるので,負荷率は低めになっています。 【備考】 配水量の日変動現場の配水管理担当者は,日々の気温や天候,曜日など社会的な要員の影響を体で知っていますが,これをエキスパートシステムで評価していこうという取り組みも発表会などではいくつか報告されています。配水水量の毎日の変化がどのような要因によって現れるのか,検討した例を報告します。 本検討では数量化理論T類に近い方法で行いました。この「近い」というのは,当時(今も)式の検定方法を知らず,表計算ソフトを使用して手計算で行ったためです。出来上がった図はなかなか説得力があるので,ここで紹介します。 1)カテゴリーとアイテムの選定まず,毎日の配水量と,これに影響を与える可能性のあるデータをできるだけ収集します。このアイテム(「項目」を英語でいうとこうなる)は,互いに独立であることが望ましい(結果の精度に影響)のですが,どうしても完全に独立とは行きません。この検討の際は,以下の3つので評価しました。
これら各アイテムを用いて配水水量を以下の式で表現します。このとき,
この式を全てのデータに対して合計し,誤差の合計を最小にするようなY,W,Tを算定するために最小2乗法を用いました。 2)検討結果計算過程は省略します(というか,もうできません)が,各々の変数で編微分し,26元(だったっけ)1次方程式を解くと,答が得られます。下図は,各アイテムが配水水量に与える変化の影響をパーセントで示したものです。 結果を少し分析してみましょう。まず,曜日,天候,気温のうち,配水水量に与えた影響がもっとも大きいのは気温でした。これは,つまるところ,季節の変化による影響が意外に大きいことが明らかになったといえるでしょう。ただ,この結果について協議した際,前日の気温と翌日の需要に強い相関があるのではないかという指摘がありましたので,付記しておきます。 曜日による変化にははっきりした特徴が見られました。平日はほぼ一定で,月曜日と日曜日の需要水量が少ないことがわかりました。この分析を行った町は地方都市で工業が盛んでしたから,分析結果にも工場の操業との強い関係が現れていると考えるのが妥当と思います。ただし,大晦日やお盆など,特殊な日における影響はこれを凌駕することは,負荷率の分析によって明らかなとおりです。 ユニークなのは天候との関係です。需要水量の増減が天候に左右されるのはもちろん,特に午前中の天気が非常に大きな影響をもつことがわかりました。たとえば,終日雨の場合はむしろ需要水量は減少しませんが,午前中雨で午後から晴れた場合に需要水量が10%程度も減少します。 なお,日変動のパターンは,生活スタイルが変化することによって大きな影響を受けることがあります。聞いた話ですが,平成3〜5年頃の週休二日制が定着していったとき,それまで確実に機能していた配水需要予測のアルゴリズムが,ある日突然完全に使えなくなってしまったことがあったそうです...って,こんなケースが頻繁にあったら大変ですけどね。 【備考】 配水量の時間変動配水量の時間変動は時間係数という指標で表します。時間係数とは,1日の平均配水量の一時間量と,時間最大配水量の比率です。ただし,
まず,前者の理由ですが,時間係数が「配水管網の最大流水能力を決定するために使用する指標」であるためで,年間で一番使用水量が多かった日の最大使用水量を求めることを目的としているための定義です。実はこの点についてご指摘をいただきまして,設計指針(2000)には,「計画時間最大配水量は、その配水区域内の計画給水人口が、その時間帯に最大量の水を使用するものと仮定し、計画一日最大給水量時における時間平均配水量に時間係数を乗じて決定する」と記載されているとのことです。(寺井様ありがとうございました。) ただし,もう少し広義に「時間係数を時間変動について捕らえる指標」と考えるとき,一日だけのデータで計算することが適切かどうかについては多少疑問があり,設計条件としては,多く日変動のデータを分析して適切な時間係数を計測するほうがよいのではないか,と考えています。時間最大の流量を記録する日が日最大の流量を記録した日とは限らないことなどを考えてみていただければなんとなくわかると思います。この辺は設計思想の範囲ではないかと思いますがどうでしょうか。 また,後者についてですが,瞬間流量をもって時間係数を算出すると経験的に過大になることによる措置で,これは経験的慣習と考えた方が納得できます。前者と逆方向の理論ですが... ということで,これらの考え方を取り入れて時間係数の算出式を以下のように修正いたしました。前述のように「≒」以降は私の意見であって,オーソライズされた定義ではありませんのでお気をつけください。
さて,時間係数の計算に参考になるデータとしては,前述のように実際の配水量を分析するのがもっとも優れた方法ですが,設計指針(1990)(リンク切れ)に全国大規模都市の分析式が,簡易水道設計指針には小規模配水区での計算式が掲載されています。ただし,前者の標準式はやや過小のような気がします。 実際の時間あたりの配水量の傾向を見るため,3ヵ年分の日最大需要水量の記録日の時間変動を図化したケースを以下に示します。縦軸がその配水区の配水水量(m3/日),横軸が時刻です。先の負荷率の図と同じ配水区ですので,あわせて参考にしてみてください。 ●小規模住宅地域 時間係数=2.45 団地など,区域がある程度狭く,かつ需要者の生活パターンが似通っている場合です。需要水量の変動パターンはよくある2山形ですが,特に山が高く,谷が深く表れていて,夜間の水量がほとんどないのが特徴でしょう。時間係数は非常に高くなっており,小配水区で時間係数が大きくなる実例といえます。 ●大規模住宅地域 時間係数=1.74 広い配水区で,その需要者が住民中心のケースです。需要水量の変動パターンは典型的な2山を示しています。もっとも一般的な需要の変動パターンといえるでしょう。時間係数は1.74とごく平均的な値を示しています。 ●商業中心地域 時間係数=1.40 商業地域が中心の配水区域です。午後の需要水量の低下が一般よりも少なく,このために時間係数が低く出る傾向があるようです。この都市は地方都市で商業地区もあまり規模が多きくないですが,大都市で大きな繁華街を抱えている場合などは,需要が減り始める時間帯が夜2時,なんてこともあるそうです。 ●工業中心地域 時間係数=1.42 工業地域が中心の配水区の需要パターンです。工場の操業時間とそうでない時間帯(あるいは夜間も操業しているのかもしれませんが)で需要水量の変化パターンが単純です。 近年では,先進的な事業体を中心に,またブロック化など配水コントロール技術の向上などもあって,配水水量の変化はかなり精密につかめるようになりました。これに伴って,住民生活が配水水量の変化に直接影響を与えていることがはっきり分かるようになってきています。 たとえば,真夜夜中に一瞬だけ需要水量が増えたりすると,配水区内の誰かがトイレに行ったんだな,なんてことが分かるそうです。また,日本が初めてサッカーワールドカップの出場を決めた時など,ハーフタイム及び延長前のインターバルの時に鋭いピークが出たうえ,試合終了時間後,急激に需要水量が増えたんだとか。多分,ハーフタイムやインターバルでトイレ休憩,試合終了直後からお風呂,ってとこじゃないか,とのお話でした。 配水需要の予測は,日常の送配水においても重要な問題です。配水水量の予測に関するシステムは,監視システムの一環としてさまざまな開発努力がなされています。 【備考】 |
目次配水量の年変動 配水量の日変動 配水量の時間変動 備考・出典更新履歴
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