水道技術経営情報
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生物処理 Chemical

 水道において薬品の注入を間違いなく行うことは非常に重要です。そのための設備についてとりまとめます。今のところはなんか凝集剤ばっかりですね...

  • 消毒剤
     消毒剤関係情報についてはこちら。
  • 薬品注入
     薬品注入設備について。別ページに分離。

【参考】


凝集剤 Coagulant

(1)凝集剤一般

 凝集剤に関する一般的な知識をまとめます。

 凝集剤として良く使用されるのはPACと硫酸バンドです。特にPACは比較的使いやすく,水質変化も小さいので広く使用されていますが,諸般の事情により,鉄系凝集剤などについても研究されています。

 凝集剤の最適注入率を知る方法としては「ジャーテスト」というのがあります。基本的には,攪拌条件を同一にした複数のビーカー(すなわちジャー)に異なる濃度の凝集剤を添加し,最もよい凝集性を示した添加率を見るものです。

 凝集で最も重要なことは急速攪拌を確実に行うことであるとのアドバイスを先輩技術者からいただいたことがあります。概ね1秒以内に完全に行き渡らせることが必要で,フラッシュミキサーでは通常十分ではなく,水落とし込みを作るか,一律に注入できるような水中多点注入を工夫するなどの方法がよいとのことでした。

 バンド,PACにはそれぞれ微妙に特性の違いがあり,これらをベストミックスに併用できれば沈降性のよい汚泥ができるとの話を聞いたことがあります。ただ,薬注設備を2重に保有するのはムダですので,よほど大規模な浄水場か,すでに硫酸バンドの設備を保有しているケースなどでなければ不要でしょう。「ベストミックス」を見つけ出すにもノウハウが必要でしょうし。

 膨潤なフロック,つまり濁質に対して凝集剤の量が多いフロックは沈降性が悪くなります。ぶよぶよ状態で半年も乾燥しない天日乾燥床なんてのもあります。(;_;) また,このような状態ではアルミの流出にも配慮が必要で,ろ過池のあとでマイクロフロック状になって再び出てきて浄水に流出することがあるようです。

 凝集剤は一般に長期間保存すると効力が薄れたりタンク内に析出してきてくっついたり,薬注管が閉塞したりします。薬注管の閉塞は基本的には避けられないものとして,交換が容易にできるような設計とすることが求められます。

【備考】


(2)PAC Poly Aluminum Chloride

 PAC(ポリ塩化アルミニウム)は,我が国の水道界において傾斜版沈澱池と並ぶ2大発明とすら言われる凝集剤で,優れた凝集性をもち,現在では世界に広がっています。

 組成は,[Al2(OH)nCl6-nm で表されているとおり,二つのアルミニウムに6箇所で水酸基と塩素がくっついた単位が重合しているものです。アルミニウムによる懸濁質の電荷の中和作用に加え,またPACそのものが高分子であることから速やかな高分子化が期待できます。

 PACの注入率は20〜40mg/L程度,ALT比((アルミニウム注入量mg/L)/(濁度mg/L))が0.05-0.2程度が標準といわれますが,原水の汚染が進むと懸濁質の沈降性が著しく劣るため,100mg/L以上つっこんでいる例も散見されます。すでに凝集剤というよりは吸着剤として使用しているようなものといえる状態ですので,このようなケースでは早急に高度処理の導入を検討するべきでしょう。

 PACの規格はJIS K 1475にて,以下の規格が設定されています。設計時の参考にしてください。

  • 比重1.19以上
  • 酸化アルミニウム(Al2O3) 10.0−11.0%
  • pH 3.5−5.0

 注入率に比例してアルカリ度を消費(PAC1につき0.15)しますので,アルカリ度が不充分な場合はアルカリ助剤を使用します。

【備考】


(3)硫酸バンド Aluminum Sulfate

 初期の急速ろ過で使用された標準的な凝集剤で,現在でも使用されていますが,PACへの以降の傾向から使用は減少しているとのことです。固形のものも規格にはあるようですが,使いにくそうですし見たことがないのでっこでは無視して液体のみを扱います。

 組成は,Al2(SO4)・nH2O で示されます。アルミニウムの荷電中和作用によって懸濁質の負荷電を中和,重合を促進します。PACと比べて注入制御が難しいとの話を聞いたことがありますが,実際のところは良く知りません。ごめんちゃい。また,硫酸塩を注入すると,万一嫌気化状態に置かれたときに硫化水素が発生するための硫黄の供給源になるとの見方から,極力硫酸塩を注入すべきではないという意見もあります。

 硫酸バンドの規格はJIS K 1450にて規格化されています。

  • 酸化アルミニウム(Al2O3) 8.0−8.2%
  • pH 3.0

 このほか,注入率に比例してアルカリ度を消費(PAC1につき0.24)します。比重は1.3程度です。

【備考】


(4)高分子凝集剤 Organic Polymer Coagulant

 カチオン(陽イオン)性,アニオン(陰イオン)性,ノニオン(非イオン)性に分類され,いずれもアクリル系の高分子の水溶性有機物にカルボシキル基,アミド基,スルホン基などを配置したものとのことです。凝集剤の凝集部分を高分子の鎖にくっつけたようなもの,というイメージでいいのかしらん?

 工業製品として加工生産できるので,単独で強力な凝集作用を与えることができ,また性状も自由自在(とまでいうと言い過ぎかもしれませんが)に製造することができます。排水処理の分野ではかなり積極的に使用されていているようです。

 浄水処理用としても使用できますが,アクリルアミドモノマー(要は,鎖にくっついていない,あるいは鎖からちぎれた一単位分)に毒性の懸念があるため,その制御が必要です。たとえば,アクリルアミド系ポリマーの場合は,処理水のモノマー濃度が0.05μg/L以下であることが必要とされています。この弱点があるため,国内では浄水用としてはあまり使用されていないようです。海外では結構使用しているようなんですが。

【備考】
 あまり詳しくないので,水道水質ハンドブックなどを参考にしました。


(5)鉄系凝集剤

 鉄系凝集剤とは,凝集剤の主たる性能である電気的中和の作用を,鉄イオンの役割によって発揮するタイプの凝集剤です。硫酸第一鉄,硫酸第二鉄,塩化第二鉄,塩化コッパラス,ポリ硫酸鉄,ポリ塩化第二鉄,鉄-シリカ無機高分子凝集剤などが研究され,ACT21(高効率浄水技術研究開発)などの成果として,塩化第二鉄-シリカ無機高分子凝集剤(PSI)などが実用の域に入ってきているようです。

 鉄系凝集剤が注目されるに至った経緯としては,アルミニウムの毒性疑惑があります。平成15年度の水質基準改訂では,アルミニウムの基準が0.2mg/Lに設定されましたが,通常あり得ないにせよ,事故などで大量の凝集剤が投入されてしまった場合などでこの基準を超えてしまう可能性がある,ということなどから,代替凝集剤の検討が進められました。

 国内では,ACT21計画で凝集剤の多様化に関する研究が行われたほか,北欧などで使用例があるようです。私が知るなかでは,鉄系凝集剤に関するノウハウは以下の2社が詳しいようです。(無断リンク後免)

  • 鉄系凝集剤(リンク切れ)@【新日鐵環境ソリューション事業】(リンク切れ)
     鉄屋さんなので凝集剤も鉄?他にもいろいろ。
  • 水処理薬品事業(リンク切れ)@【水道機工株式会社】
     PSIに関する研究と実用化で一歩リード。

 性能としては,PSIを使用する場合,PACと同等かそれ以上の凝集性,沈降性があるものの,多少ろ過損失が大きいとのこと。現在の処理施設を鉄系に切り換えるためには制御系やノウハウの再構築など多少手間が必要ですが,十分その可能性を秘めているようです。

【参考】
 凝集剤関係について,スペックデータは水道水質ハンドブックなどを参考にしました。


凝集促進剤 Coagulant

凝集助剤(凝集補助剤とも)には凝集促進剤とpH調整剤の2種があります。凝集促進剤には以下のようなものが用いられますが,必ず必要ということはなく,あくまで,どうしても凝集性能を改善したい場合に使用するものです。

  • 無機系のもの
     活性ケイ酸,ベントナイトなど。活性ケイ酸は液体状ですがガラスと同じような成分(だったはず)で,懸濁質をくっつける効果があります。PSIでも添加されています。ほっとくと自分がくっついてしまいますが...(^o^)...ベントナイトは天然の鉱物の細かい砂の一種です。要は,土の成分を追加しているわけですね。
  • アルギン酸ナトリウム,ポリアクリルアミド系高分子凝集剤
     アルギン酸ナトリウムは昆布とかのぬるぬるだったはずでアミノ酸の一種。ポリアクリルアミドは高分子の有機物で,架橋作用,即ち,不純物同士がくっつきやすくなるように絡め取るような効果を持った物質です。

 いずれにせよ,凝集性が良くなる反面,投入した凝集助剤は水から分離されて汚泥が増えるわけです。よって,このような助剤なしで済ませられるような浄水フローを考えるか,大幅な凝集性能改善が必要なときに,やむを得ず採用される方法といえるでしょう。

 なお,アミド系の物質については,水質基準等の改訂をどうするか,現在研究が行われているところです。


pH調整剤

(1)酸剤

 原水のpHを調整するのに使用します。PAC,硫酸バンドなどの凝集剤は酸性ですが凝集剤を使ってpHを調整するのはコスト的にはあまり好ましくない場合などに,酸剤を使用することがあります。特に,ALT比が適当なのに凝集性が確保できないような原水の場合,酸剤を使用してみるのも一つの方法です。

 酸剤が必要になるシチュエーションの代表的なものに,富栄養化傾向のある貯留水源から取水している場合があります。特に夏期の昼間で光合成が起こる結果,CO2減少とO2増加によって水のpHが上昇します。ひどいケースでは,毎日pHが8弱から9強まで周期的に変化する例なんてのもあるそうで,酸剤の適正注入なしにしっかりした凝集沈殿を行うことができないとのことでした。

 酸剤としては一般に流通しているものを使用できます。お好みでどうぞ。

  • 硫酸 H2SO4
     安価ですが,不揮発性なので希硫酸でも扱い方によっては劇薬になってしましますので,保管などにそれなりに注意が必要です。また,硫酸塩を注入することについては,水が嫌気的な環境になったときの硫黄供給源を与えるということですから,H2S発生などの影響が発生する懸念がごくわずかにあり,この点を嫌う人もいます。
  • 炭酸 CO2
     水の味を良くするなどイメージがよく,酸剤としての性能も十分ですが,ガス状で使用するために扱いや施設が大掛かりで,高圧ガス取扱いの資格が要ることがデメリットです。CO2タンクの例は前出のとおり(リンク切れ)です。
  • 塩酸 HCl
     沈降性のいいフロックを造るためによいという話を聞いたこともあります。が,煙が出たり,危険などの特徴から現場では嫌われる傾向があるそうです。

【備考】


(2)アルカリ剤

 比較的溶存物の少ない清浄な原水を凝集沈澱する場合など,アルカリ度が不足するケースではアルカリ剤を凝集助剤として使用します。

 アルカリ剤としては,以下の3種類が使用されるケースが多いようです。

  • 消石灰 Ca(OH)2
     硬度の成分であるカルシウムを添加することになるのでイメージがよく人気があります。ただ,他の薬剤と比べて水には溶けにくく,設備内にスケールを生成するなど扱いは少し面倒になります。
  • 苛性ソーダ(NaOH)
     安価で効果が高く,水にも良く溶けます。設備も小さくて済みますが,効果が高すぎて原水が清浄だと注入率の変化で水のpHが大きく変わりすぎてしまうケースがあります。また,毒劇物ですので保管に注意が必要なうえ,ある意味人体へのダメージは酸よりも強力(目に入ったら失明など)ですし,結晶体でも長期間の保管で水を吸って扱えなくなってしまうなどの例もあります。ある程度技術レベルが確保できるケースでお勧めです。
  • ソーダ灰(Na2CO3
     容易に解け,法規制も受けないうえ,紙袋で搬入するので,防湿をちゃんと考慮すれば比較的保管運営が容易です。簡易水道など,技術者が十分確保できない環境に向いていると言えるでしょう。ソーダ灰を使用する場合は水に溶解するためのかくはん槽とかくはん機用の電源が必要で,特に薬品注入パイプは詰まりやすいので下凸部がないようにします。

【備考】
 水道水質ハンドブックにはアルカリ剤の比較が詳しく載っていますので,設計条件などはこちらを参考にされるとよいでしょう。



目次

凝集剤
 水の不純物を集めて集めてくっつけて...

凝集促進剤
 不純物が足りないとき,その代わりを努めるものです。

pH調整剤
 水の性状や腐食性を改善したり,凝集効果を上げやすくするなどの効果を期待して投入します。


備考・出典

 構成を見なおし,高分子凝集剤,鉄系凝集剤について追記しました。ネタもとは水道水質ハンドブックが多いですが,水処理薬品ハンドブックなど他にも良著はあるようです。


更新履歴

  • 120815 新様式で作成。


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