水道技術経営情報
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別の水道システムの提案 Innovation of Water System

 日本で近代水道が確立して100を超える歴史があります。この積み上げの経験は類まれなる資産であり,日本の公衆衛生や社会的発展の重要な礎になってきた事実について,異論をさしはさむ人は恐らくいないでしょう。しかし,如何なる技術分野でも,成熟するにつれて規制や技術的限界にの枠一杯で外殻のような枠を形作ってしまい,その成長を止めるものです。水道においても,その類まれなる経験資産が偉大であるがゆえに,これを踏み外した検討はなかなか行いにくいのが現状といえます。

 ところで,計画論では,将来計画を立案する際,2つのアプローチがあるといわれています。一つは,現在の設備や技術を基礎条件として,これからの発展を図るべく調査するもの。もう一つは,現在の条件をまったく無視して,可能な限り理想的な姿を思い描き,そこで至る道筋を示すものです。水道界で行われる計画が前者に近いアプローチといえるでしょう。であるならば,資材の制約や行政制度の枠を無視し,水道システムが発生した当時は想像もされなかったような膜処理技術など,現在あるかあるいは近未来的に成立しうる技術的条件をもとに,水道事業の姿を想像してみることにも,一定の意義があるものと考えます。

 このレポートは,「別の水道システムの提案」と題して,現在の事業の姿とは「別の」水道事業のイメージを膨らませることを目的として作成しました。はっきりいって,ここに上げた内容のほとんどは,まったく荒唐無稽なものです。が,水道の将来の姿を考えるために,少しでもヒントになることを祈りつつ,かなりひどい内容ではありますが,ここに公開します。

【参考】

計画と申請

1)「別の」事業計画手法

●「人間の濃度」に関する研究

 現在,需要水量などの推計は人間の数をベースに行っています。しかし,人口の伸びの鈍化を考えると,地域ベースでの人口の「飽和状態」について考慮する必要があります。いうなれば,この,「人間の濃度」を事業計画に応用するような手法を研究することが可能かと思います。

●統計的手法による計画値の設定

 すでに日本には,簡易水道を含めて1万件以上の水道事業のデータがあります。そこで,計画時における,実績を数学的に分析する方法(現行の計画手法)を改め,日本国内の事業体の実績を横断的に分析し,数量化理論などを使用して計画に応用できないでしょうか。

●簡易時系列分析

 過去20年分のデータを集め,20年,10年,5年のデータによる直線相関を算出することで,長期的な傾向,中期的な傾向,短期的な傾向を知るほか,それぞれの差から,この地域の人口増加傾向が一定しているか,最近急に始まったものか,あるいは鈍化の傾向を示すかを把握することができる可能性があります。得られる情報の割に計算が非常に容易な点が魅力的です。

●振れ幅の大きい指数の計画値−負荷率など

 負荷率のように振れ幅の大きい指数では,最大値や平均値を使用するのが一般的で,事情により使い分けています。不確定要素の影響を受けやすいこのような数字の計画に,ローソク足のようなグラフを使ってみてはどうでしょうか。例えば, 日あたりで最も大きい負荷率,一年の最大水量の日の負荷率,平均負荷率などをうまく図化する方法について研究する余地があるように思います。

●平均的な「水道事業体」モデルの作成 (2001/10/17)

 新しい技術の導入シミュレーションを行う場合など,にモデル水道事業を想定したシミュレーションを行う必要があります。しかし,このときにどのようなモデル事業を使うと適当なのかについては,創造の域を出ないものがあります。日本,世界を問わず,また大規模,中規模,小規模などのイメージを捉えやすいモデルを作成するニーズがあるものと考えます。

●計画前提のパラダイムシフト

 MAX−MAXからEFFECTIVEへ。枠確保から見通し+リスクへ。時代の変遷に対応して目指すところを変化させることになるのでは。

2)申請や統計システムの改善

●認可申請手法の改良

 認可申請書の様式は政令にてある程度指定されていますが,記載内容については併せて提出することになっている「水道台帳」の方が簡便で分かりやすいものです。いっそ,基本計画である程度自由に検討した結果を,水道台帳をもって申請するのはどうでしょうか。

●ネット公開を前提とした計画設計

 紙ベースでの成果品の提出を廃止し,ホームページの形で発表して審査してもらう方法はどうでしょうか。認証などの技術的問題はありますが,紙への打出しができるし,公文書などへのリンクも貼れるし,更新も比較的容易です。今なら話題にもなります。横道ですが,学位論文の提出などにも応用可能です。

●データの寿命の延伸

 ITがなかなか進展しないのは,ハード性能の進化スピードが早く,投資の回収に時間を要する水道インフラとのタイムスケジュールが会わないことが大きな原因と考えられます。これを解決するための1手法として,データの寿命を延ばすための研究を進めるべきと考えます。

【備考】


経営手法

1)資金調達

●起債から資本主義へ

 民営化についてはいろいろかまびすかしいところでもあるのですが,あえて水道事業の「別の」経営形態について考えてみます。

財団法人化  基金を設けてその運用益で事業を運営します。経営の支配力が小さくなるが,大きな基本財産が必要となるのでなかなか難しい面もあります。
公営企業
(現行)
 資金は補助金と起債により調達します。起債に対する償還金は収益から返却します。毎年の償還額は起債時点で明らかであり,長期的投資でも支出がある程度一定となるため,長期的に安定した事業が行える利点があります。また,資本に対する配当が不要です。
相互会社化  資本金を設定して参加社員を募り,これを元手に事業を経営します。(現行法では保険会社のための仕組み。)株式会社との違いは,社員=契約者=選出の総代により構成される機関(総代会)を設けることが定められている点で,このあたりが水道にマッチします。
株式会社化  資本金を設定して出資者を募り,これを元手に事業を経営します。出資比率に応じて株主の権利が明確に規定されています。通常は利益を元手に配当するが,水を配当とみなす方法も可能かもしれません。

●料金徴収

 現在,水道料金は2ヶ月に1回締めて振りこみなどの方法で回収していますが,この回数を減らしたり,なくしたりすることでコストの縮減を図ることができるのではないかと考えられています。(現実にはいろいろあってなかなか手をつけられないようなんですが)

 また,水源の状態によって水道料金が変化する事例は,世界的にはあるようです。たとえば,中国や南アフリカでは,渇水期に規定以上の水使用に高い料金を課している事例がありました。渇水期のみならず,平時から水源状況と料金システムを関係づけられる可能性があります。ただし,メーターシステムの大幅な改良更新が必要です。

 また,逆に,水道メータを毎日読める形で室内に置くことで,節水に効果があることはよく知られています。

 「別の」料金徴収システムについて考えてみましょう。

2ヶ月に1回
(現行)
 料金は2ヶ月に1回,検針によって使用水量を特定し,基本料金と,一定水量を超える分の従量料金の徴収によっています。料金体系の変更は議会の議決を要するため,渇水時などで変更するなどの方法は取られていないのが実情です。ただし,赤水被害などには補償や料金低減が行われます。
毎日締め  料金を毎日締めとします。使用権は,現有水量のうち何パーセントを使用したかによって配分し,毎日の維持管理料金を分配する形とします。料金の相場は毎日公表します。使用配分水量を超えて使用した分には課徴金的な高い料金を課します。自動検針システムの導入が不可欠です。
一定日締め
(週程度)
 貯水池の水位や水質によって連続的に料金を変更します。水源水質が豊富良好で処理が容易なうちは料金を低く,水量,質が不足しているときは料金を高く設定することが考えられます。節水が必要な時期において,使用水量を節約してくれる場合に料金の優遇を与えたり,逆に,規定の水量以上の使用には追徴料金を設定することも可能でしょう。渇水時などにおいて,低い土地に住んでいる住民だけ水が出る,といったことが問題になるケースがありますが,このような状況への牽制効果も期待できます。
プリペイド  水道メーターをプリペイド方式とし,あらかじめ別途購入されたカード等のお金が切れたらメーターが落ちるようなタイプにします。検針が必要なくなるメリットがあります。(不正は出てくるかもしれませんが)(Yさん案,T社さんが特許とってるかもしれませんが)
積みたて式  当座制として,水道料金の徴収を1年に1回とします。ただし,契約時に,口座の開設と1年分の予測料金分の振りこみを義務付けます。口座内の金額管理を銀行に委託する,水道として優遇利息をつけて優遇する,などの方法で,口座内に資金を滞留させる義務に対する賛同を得るよう努力します。転出時に清算します。
自己申告式  水道料金を需要者の自己申告払い制にします。水使用量を自己申告制度とし,検針が不要な分を通常料金よりも割り引きます。閉栓時や6年に一度のメーター交換期に清算します。不正を防ぐため,敷金のような準備金を設定し,不正があった場合にはこれを没収するようなシステムにします。
証券方式  水の需給権を証券化し,証券を有する者への配当の形で水利権を分配します。たとえば,需要水の100m3権利など,証券の発行により,投資に対する利益としての水の配分を行います。証券の管理は,代理人による方法も考えられ,公営企業からの移行時などにおいてはこの方法が取りやすいでしょう。(代理人の利益分,需要者の負担は大きくなるが,手続きなどは不要となります。)水の需給権を市場化できるメリットがある反面,投機の対象になるリスクがあるかもしれません。

2)広報

●異常監視を賞金制にする

 水質データを24時間連続監視とし,異常検知に対して賞金をかけます。事業の維持管理人員,モニタリング人員を削減できる可能性があります。ただし,どのモニターがどの水源なのかは公開しません。自作自演を封ずるためです。

 もっと広く,水源や配水システムすべてについて同様の監視体制を敷くことも可能性としてはできるかもしれません。

 自発的ボランティアだけでは心配なので,たとえば関係者のブラウザのホームに設定してしまうのも手ですね。コンピュータのスイッチを入れるたびに,強制的に立ちあがります。

●断水の日

 意図的に断水する日を設けてみてはどうでしょうか。水道のありがたさを認識してもらうことができると思いますし,計画断水や復旧の訓練にもなります。

 止まらないのが当然と思っているのは思いこみかもしれない。貯水槽を定期的に洗浄するのであれば,配水管網もたまに洗浄して,水道の大切さを認識してもらうイベントにするのはどうだろうか。清潔さの確保のアピールにもなるかも。

●夏休みの研究課題になるようなコンテンツ...(PRESENTED BY 謙ちゃん)

 家庭での使用水量や水質,自宅で毎日夏休の間,30日間何かずっと調べると,当該水道課から,それにリンクしたデータがもらえて,夏休の宿題のグレードがぐんと上がるようなしかけとか...

●題して「ウォーターキャンプ」(これどう?)(PRESENTED BY 謙ちゃん)

 二泊三日ぐらいで、水源地から取水〜配水池見学と、水の大切さを肌で触れる各種のアトラクション付。当然水源地近くでは、テントを張ってキャンプ、それも限られた水をグループに与えてその中で二泊三日を過ごさせる。夜は、星空を眺めて宇宙における水や水の大切さを語って聞かせる。

【備考】


水源と水質

1)水利権

●慣行水利権の買収

 水利権の確保は水道事業を計画・実施するうえでもっとも頭の痛い問題です。そして,水利権の大きな部分を保持している農業が衰退していると言わざるを得ないのも事実です。

 せっかく農地が減っているなら,その水利権は大切に利用させていただきましょう。まず,宅地開発会社と提携して開発可能な田んぼを購入し,その慣行水利権を同時に取得します。宅地は開発業者が開発に利用して,その水道施設整備は水道事業者が行います。水利権と引きかえに,水道事業者負担による水道整備を保障するのはどうでしょうや。

 現状のしがらみを敢えて無視してます。ここにつっこまないでください。

●水源権の証券化

 先の料金体系のところでも述べましたが,水の需給権を証券化し,市場で売買する方法も考えられるでしょう。水利権を小口化し,需要者を経営者と運命共同体にしてしまうことが目的です。水の供給量を保障するのではなく,取得可能水量の範囲で保障する。(年金の確定拠出型とにた経営方法。)

 使用可能水量は降雨量より算定され,毎月自動的に使用可能水量が提示されます。使用可能量以内であれば,証券を有する需要者は,維持費相当費用をのみの負担とします。使用可能量を超えて使用する場合に比較的高額の従量料金をとります。家庭のメーターとホストは電話回線を通じて連携します。

 英国では,電気のように,配水管網管理会社と浄水供給会社を分離して競争を促す方法が研究されているそうであるので,もっと拡張的な考え方も成立する可能性もあるでしょう。

2)水源の開発

●水質基準の見なおしと他の用途とのリンク

 水道,水産,農業,工業など,目的によって求められる水質が異なるのはしかたないとして,これらが各々別々の省庁と法律によって規定されている現状は,非常に煩雑でしかたがありません。最低限水質項目だけでもまとめてほしいものです。(CODと過マンガン酸カリウム消費量など)

 また,現在の用途別の要求水質は,各々が勝手な主張を展開しているに過ぎず,たとえば農業用水の窒素基準が1mg/Lなど,現状にそぐわないものも増えてきています。用途別の必要水質についてもっと真剣に見なおす時期にきていると考えられます。

...もっと言えば,定期的に更新するよう,いかなる法律にも有効期限を設けることが望ましいでしょう。

●都市雨水の積極活用

 渇水時でも水源地の山間部より都市部で雨が降りやすいケースがあります。都市部の雨水利用について考えることは意外に重要ではないかとの話はよく聞きます。少なくとも,長期的な降雨パターンの分析は必要と思われます。

●カスケード利用の推進

 処理水再利用は,家庭内再利用が最も有効と思われますので,これを積極的に推進する施策を研究したいと思います。下水道使用料を従量徴収したり,家庭内循環利用の推進と補助を打ち出したり,などの政策が考えられます。

●雑用水の時間変化を活用

 福岡の事例では,雑用水はの需要は昼間のみで,夜間は使用がほとんどありません。工水との組合わせで,昼は雑用水,夜は工水として使用する,といったような,時間差攻撃も研究する余地があるでしょう。特に工水への低質水利用は,他の用途と違って,供給可能水質に需要用途を合わせることができる点で,他の再利用用途よりもずっと現実味があります。

3)水質試験体制の改善

●市民による水質調査

 小学校に協力を要請し,水源水質を自由研究のような形で調べてもらう試みがあちこちで行われていますが,この取り組みにはメリットが多いので,もっと積極的に組織化するべきです。まず,だれでも大体の水質が図れるようなキットを開発して,自由に水質試験を行ってもらい,WEBを利用してその結果を募集するような方法も考えらます。学研の教材などとのタイアップもあっていいかもしれません。

 ただし,このためには,簡易測定キットの精度向上など,道具の開発が必要になります。いい加減な水関連商品をパージするためにも有効かと思います。

●水質試験の2段階化

 水質試験項目を2段階にし,1次スクリーニングを導入することで,全項目の測定を省略できるようにできないでしょうか。たとえば,毒性試験を導入して各項目の試験を省略するなど...(現時点ではこっちのほうが金がかかりますが...)

 水質測定手間の低減は,費用低下のほか,測定頻度の増加や廃液の低減,前処理に費用を要する微量変異原性物質の項目化に威力を発揮するものと考えます。

●水源水質調査の多角化

  河川などで,マンガンの多い河川では,曝気による酸化で析出して川全体が赤く着色していたりします。これを応用して,水を採取するのではなく,鉱物の表面に析出した物質を採取して水源水質の傾向をよみとることはできないだろうかとか考えてます。うまくはまれば,木の年輪のように,層状の水質履歴をきざんでいるかも?

【備考】


水処理システム

●芳香剤添加

 人間には感知できないようなレベルで芳香剤とか,アルコールとかを添加することはできないでしょうか。臭気物質はナノオーダーの物質ですし,健康被害はないようです。金のかかる活性炭ではなく,簡単な方法で臭気対策ができるかもしれません。

●抽出処理システム

 有機物の測定方法の一種に抽出法があります。では,ノルマルヘキサン抽出のように,水中の有機物を溶媒との接触によって抽出する処理はできないでしょうか。微量有機物処理になら使えるような気もしますが。

●使い捨て膜

 性能は一級品でなくともかまわないので,使い捨て膜ができれば,手間のかかる薬品洗浄は不要になると思います。パルプなどを使用したろ過膜材や吸着剤があると,環境に優しいなどのキャッチコピーが使えるようになりますし,使用後は使い捨てとしたり,紙の原材料にできます。ロール式にして膜を連続交換してゆくような方法はどうでしょうか。

●超電磁凝集分離

 凝集材を鉄系の大きい分子にし,磁気的に攪拌したり,分離したりできないでしょうか。可動部を減らすことで維持管理の手間は極小になります。

●超音波洗浄

 超音波洗浄を膜の洗浄に応用してはどうでしょうか。毛管現象を促進する効果もあるらしいので,逆洗効果の向上も期待できるかもしれません。膜の材質によっては,機械的ではない,電気的や磁気的な方法による振動も考えられます。

●加温膜ろ過

 水温を上げるとフラックスの向上が図れます。そこで,コジェネシステムのような感覚で,自家発電装置と膜処理を組みあわせ,浄水効率を向上できないでしょうか。

●人工腎臓

 膜処理の1種として,人工の腎臓のようなものを製薬会社やゲノム計画の予算で研究しましょう。実験動物の腎臓を遺伝子操作するなどの方法で生体膜を生成させるのも面白いんじゃないでしょうか。

●熱処理・冷熱処理の研究

 熱源利用と水処理を積極的にリンクできないでしょうか。「氷蓄熱空調」の凍結・融解を水質改善に活用したり,あるいは火力発電やごみ発電との連携,蒸散揮発による水処理への応用が可能かもしれないし,蒸気の状態であれば,光科学処理など別の方法も視野に入ってくるようにも思われます。特に,ごみを使用したコジェネを考えてはいかがでしょう。ごみであれば,夏期のごみを蓄積しておいて,冬期に燃やすことができるかもしれません。

 また,家庭内での再利用など,風呂水という温水の利用とも関連します。時間によって供給水温を変えることも可能かもしれません。夜や早朝など,炊事や風呂用水は暖かいほうがよく,昼間は冷たくともよいですし...水冷式のクーラーや冷蔵庫などとの連携もありうるでしょう。ヒートポンプや水素発電の概念によって,可能性が少しずつ出てきていると思われるのですが。

●ADVANCED植生浄化

 アシの利用などの散発的な研究はみられますが,あくまでも自然環境的な活用が想定されている嫌いがあります。強い光をあてて処理を促進する方法,加温による促進,遺伝子組み替えによる処理専用植物の開発など,もっと積極的な処理への導入は考えられないでしょうか。

●膜使用による新しい水道について。

 膜処理はスケールメリットが小さいようですが,裏返せばスケールデメリットもない,といえます。まさに,家庭用の浄水器に積極的に膜が活用されているのはその証左でしょう。では,原水をある程度浄水して送水し,町内に一箇所程度,デリバリータンクと小規模な膜による浄水場を設置することで,小規模分散型の水道の可能性が開けるかもしれません。

【備考】


送配水システム

1)「別の」水供給システム

●他の水供給システムとの再比較評価

 「上水道」システムの最大の特徴はパイプラインの採用で,鉄管などの構造物を用いて有圧で送る旨,水道の定義にもそう謳われています。

 パイプラインの有利な点は,大量,継続,安定的に輸送でき,イニシャルを除くエネルギーコストが低いことで,特に「大量」の1点において圧倒的な強さをもちます。反面,資本の占める割合が高く,投資回収に時間がかかるために,機動的に事業内容を変更することが他のシステムより難しいことが弱点です。

 水資源の有限性が強く認識される現代においては,「大量」を要求しない水道「様」システムについても成立する余地がでてきていると思います。トラックによるボトル輸送(ローリーシステム),低処理水送水,井戸取水,雨水利用,雑用再生水など,水の需要者と供給者を結ぶ,水道と競合しうるモデルが生ずる余地があるいは出てきているかもしれません。

●配水管網を資材の規格に合わせる

 現在では先に配水区をある程度決め,これに水を配るための配水システムを設計します。これを改め,管の口径を絞り込み,その管の能力で配水できる範囲を配水区の一単位とすることを提案します。ブロックシステムとの相性がいいのも特徴ですが,管の口径を絞り込むことがその主目的です。管の口径を絞り込むことによるメリットは後述します。

●ブレーカーシステム

 電気においては過電流による回路の破壊を回避するため,部分的で意図的な弱点を回路に設定します。水道システムでも同様の工夫はできないでしょうか。たとえば,需要が増えすぎる見こみのときに水圧を制限するような弁などがイメージされます。

●水圧の有効利用

 現在の水道システムの最大のエネルギーロスは,需用者地点で一端水圧エネルギーをすべて捨ててしまうことにあるのではないか。高効率の循環系を考える場合,人体の血循環にたとえてみると,静脈系を圧力管にすれば,水圧の現存を防いだ形での水循環系が構築できる可能性がある。現在の水使用は,水圧を解放して「水」として使用することが前提になっているので,特に溶媒としての利用を中心にライフスタイルの変化を伴えば可能になる可能性がある。電気などの方法で回収もあるが大した効率は得られないと思われる。

2)管路を利用した情報伝達

 送水システムの管理には,テレメータなど電気的な信号システムを利用しています。技術的には確実ですが,テレメータ設備に要するコストは維持管理頻度が高いことも併せて無視できないものがあります。そこで,水自体の情報を伝達する能力を活用できないか考えてみましょう。計測設備をポンプ場に集中することで,コスト削減が図れる可能性があります。

  • 水圧
     特に小規模水道用に,ポンプの送り口での水圧を管理検知することによって,送先の水位を把握することはできるのではないでしょうか。送水の停止はタイマーによるものとします。
  • 音波
     音波信号を水道管を媒体として伝達することができるかもしれません。漏水音などとは周波数帯が異なる音を利用します。管内音の収集システムは,配水管路の異常検知など,別の効果をもたらす可能性もあります。
  • トレーサーとしての塩素
     たとえば,浄水場でトレーサーを投入し,配水池で除去設備を設けることで,到達時間が正確に把握できる可能性があります。トレーサーには,塩素剤やオゾンなど水処理で使用する物質を使用します。

3)配水池の改良

●池内攪拌設備の設置

 配水池内に攪拌装置をつけ,微細粒子の沈殿を防ぐ方法はどうでしょうか。掃除の頻度が小さくなれば儲けものですが。

●残塩制御による池内塩素濃度のコントロール

 配水池内の消毒剤濃度を極力減らし,流出側に小分け槽を設置するのはどうでしょうか。配水池内での貯留時間は長めに,かつ塩素接触時間を短くでき,THMなどの問題に一定の効果があると考えます。再増殖の危険性には,UVや低濃度塩素など,別の方法で対処します。

4)配水資材の改良

●管種類の見なおし

  • 口径の絞込み
     自動車会社のコストダウンの取組みを見ていると,その特徴として,部品の種類を絞り込む手法が特徴的です。これによって規模のメリットが活き,部品種類ごとのコストも削減できるし,非常時用の資材確保にも有利に働くものです。そこで,配管材料の値段を下げるために,口径を絞り込むことを提案します。経験上,中口径以下の配水管の口径を,300,150,75,小口径軟質管(次項参照)のみとすることを提案します。φ150中心主義とでも名づけましょうか。
  • 異型管の絞り込み
     資材の種類を減らすという意味で,異型管も思いきって減らしましょう。異型管の種類を限定すれば値段も下がります。継ぎ手の可とう量を10度程度まで拡大し,曲管も45度のみに絞り込みます。先に提案した口径の絞込みにより,T字管や片落管の種類も大幅に減らせます。このような方法について共通化し,ISO化を推進,海外進出を果たします。

●スマートボルト

 電食,腐食防止用に,Tボルトの頭をバイメタルにした製品が開発され,効果を上げています。これを一歩すすめ,Tボルトに位置情報を発信できるタグを組み込むことを提案します。Tボルトの数や配置が正確につかめれば,口径,管種,方向などの情報が簡単に検知できます。パイプへの改良は不要で現状管に使用できるほか,現有工法への追加手順がないので普及しやすいと考えます。また,ボルト自体に種類が必要ないので大量生産できますし,漏水の発生しやすい継ぎ手部分にセンサー情報が集中するのもメリットです。

 また,電食防止用の電位差を利用して情報を発信するタグにすれば,さらに応用性が広がる可能性があります。また,塩素によって容易に減耗する素材を使えば,漏水(ほとんどが継ぎ手から発生)も分かるかもしれません。

●梃子型バルブ

 浅埋設用のバルブとして,昔の鉄道信号のような梃子型の弁の開発を提案します。浅い埋設深さでないと使用できないため,これまでこのような形態の弁は販売されていないようです。小口径管にしか使えない嫌いはあるのですが,梃子の原理により迅速に開け閉めでき,非常時に有利です。また,可動部分が比較的小さいため,施工工程の低減が期待できます。

●弁体部分のユニット化

 弁体部分の施工は,芯だしなど施工に熟練を要する,工程上のボトルネックです。そこで,この部分を極力ユニット化し,分岐ユニットには分岐部,弁,弁室をセットにして工場生産しましょう。使用管材の口径を絞り込むことで可能となると思われます。

●管内攪拌部品の設置

 新規に開発する継ぎ手にはフィンを取りつけ,攪拌を促すことはできないでしょうか。管内水を攪拌することで,管内にごみがたまらないようにすることはできないでしょうか。損失ロスが増えるため,どこでも使用できるわけではなく,継手部自体の劣化による懸念も生じますが...

5)配水工法の改良

●仮復旧の廃止

 道路配管の施工では,一端仮復旧を行い,後日本復旧を行いますが,小口径の管路では舗装にかかる費用が全体の過半を占める場合もあるので,大きなコスト要因です。水道としては,是非とも仮復旧という工程をなくしたいところです。

 仮復旧の省略を目的とする場合,通常工法でもFe石灰のような土質改良剤を使用して地盤を固める方法や,温度などで硬化や膨張量をコントロールできる資材の開発などが考えられます。また,下に示すように,路盤直下に鞘枠をもってくることで,浅埋を極端化することにより,仮復旧をなくしていきなり路盤を設置することも考えられます。

●軟質管の利用を前提とした「別の」小口径配管

 ここでいう小口径管網とは,原則φ75程度以下を想定しています。幹線管網では信頼性を重視せざるを得ないのですが,小口径管路ではその重要性が相対的に低くなります。よって,極限まで施工性を重視した方法が導入できる可能性があります。

  • 軟質管のリール運搬
     管には軟質の材料を使用し,リールなどで巻きとって運びます。施工性を向上し,継ぎ手をほとんどなくすることにより漏水の危険を抑制することが目的です。また,口径の大きな管で巻き取り運搬が難しければ,薄い管を2つ持ってきて,現場でパイプインとしたり,現場で加熱して固めたりする方法も考えられます。少し難しくなりますが...ただ,軟質管部分が受け持つ給水取りだしについては,まだアイデアが浮かんでいません。
  • 鞘枠の採用
     軟質管は管自体の強度は低くなります。地震などへの心配は低減するのですが,道路荷重への備えが必要です。ここでは,チャネル形状の,鋼製の鞘材を設置し,管をガードすることをイメージしてみました。道路荷重はすべて鞘材が負担しますが,水密性は必要ないので,地面に並べるだけで施工できます。一つあたりの長さは人力で運べる重さで規定し,規格を統一して種類を減らすことにより調達コストを絞り込みます。浅埋が前提になりますが,鞘自体に強度がありますので,埋設表示テープの類も不要となります。
  • 仮復旧の中止
     路盤直下に鞘枠をもってくることで,浅埋を極端化することにより,仮復旧をなくしていきなり路盤を設置し,本復旧にしてしまうことを提案します。詳しくは前述,「仮復旧の廃止」を参照してください。
  • フレックス口径管
     さらに進んで,血管のように水圧によって管の径がのびるような管材の開発はできないでしょうか。水圧がかかれば管がのびロスが小さくなり,水圧のかからないところでは管が縮んで滞留水が少なくなるかもしれないですし,エネルギーの貯蔵的な役割も期待できるかもしれません。ただし,管体自体に強度がないので,鞘枠の採用は必須になるでしょう。まあ,ここまでくるとかなり荒唐無稽度が上がりますが...

●鉛管対策(00/05/08)

 既に提出済みですが...鉛管対策に関するへなちょこなアイデアを一挙公開。  (-_-)ゞ

  • めっき
     鉛管内に金属イオンの溶けた溶液を封入し,電圧をかけて管内をめっきします。
  • 水溶性硬化材コーティング
     水溶性塗料のようなものを給水管内に注入し,管内で固化させます。
  • 連爆式ライニング材
     2次大戦の時にドイツ軍が作ったムカデ砲が発想源です。ライニング材内に膨張材(火薬など)を小袋に分けて一定間隔でいれ,点火することで連続的にライニング材を給水管内に押し付け,加熱圧着します。短時間でしかも特別な道具を要しない施工が可能かもしれません。
  • 浄水器
     鉛管を使用している需要者に,鉛を吸着するイオン交換機能を有する浄水器を貸し出します。給水管の耐用年数は数十年程度である(はず)なので,鉛管の交換時期までのつなぎとします。
  • 管内調査用「胃カメラ」
     給水管末端より胃カメラ状の道具を使用,分岐部まで進行し,小型マニピュレータ状の工具によりライニング材の接着反転を行います。風船や凍結による分岐部の閉栓,凍結による管の押し広げなどは可能かもしれません。
  • 鉛溶出量チェックシートの配布
     給水工事屋をスポンサーにして鉛含有量が簡単にチェックできるパッチキット開発,大量無料配布します。パッチキットにはスポンサーの連絡先を書いておくことで,スポンサーの給水管取替え工事業者との思惑の一致を図ります。

【備考】



目次

計画と申請
 水道の計画手法に関する別の手法の提案や,申請制度の見なおしについて。

経営手法
 資金調達や料金設定方法を変えてみたらどうなるか...どのような選択肢があるかをリストアップ。

水源と水質
 水源の確保や水質管理に関する手法について。

水処理システム
 浄水処理のタブーやエネルギーコストの常識を一端否定してみたら...かなり「荒唐無稽」度は高いですが。

送配水システム
 送配水の工法や資材の効率化に関する提言。他のに比べるとずっと現実的です。


備考・出典


更新履歴

  • 120810 新様式で作成。
  • 010601-29 ホームページ作成1周年記念事業(^o^)。次期プロ用提案をかねて作成。


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