水道技術経営情報
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基本計画 Foundation Planning

ここでは基本計画の手順についてより詳しく整理します。

【参考】


基本計画

 基本計画は,水道事業のおかれた条件のもとで,今後,継続的もしくは新たに取組むべき施策を検討,立案するものです。その検討課題は,水道施設の計画にとどまらず,現況の分析や,需要や社会条件の予測,政策課題など多岐にわたります。大枠のフローは右図のようになります。

 ここでは,基本計画書を策定する場合の,報告書作成の目次を想定し,その手順と注意点を示します。

(1)基本構想

 「基本構想」では,基本計画の策定に先立ち,水道における施策の方向付けを行います。このために,水道事業の現況をとらえ,基本計画策定上の基本的条件(計画給水区域や目標年次などを含む)を把握するとともに,政策的,技術的な理想を掲げ,計画策定のための方向づけを行うことになります。

 基本構想として検討すべき項目は以下のとおりです。

  1. 厚生省の施策から制度的方向性と補助事業の可能性を整理。
  2. 県の水道基本計画,広域水道計画から近隣事業体との関係を把握。
  3. 市政概要や事業体の歴史を調べ,地域の特徴を把握。
  4. 既認可申請書を確認し,現状施設と照らし合わせ,問題などを把握。
  5. 水道事業体の関係者が実感している問題点を丁寧に聞き取る。チェックリスト,もしくは提案書を使用。

 その他,特徴を出したい場合など(たとえば,ブロック化を導入する提案や,PRの強化を図る案など)は,基本構想に盛り込むとよいでしょう。

【備考】


(2)需要の見通し(事業計画)

1)基本計画における事業計画

 「需要の見通し」として,計画年次までの間の需要の動向を占い,その後の施設計画の基礎になる計画給水人口や給水量,有収率等の計画値を算定します。これを「事業計画」や「需要予測」と呼びます。

 人口,需要の推計には,様々な方法がありますが,水道事業計画としてよく用いられるのは,水道施設設計指針・解説にもとりあげられている時系列傾向分析です。時系列分析が多用される理由は,計算が平易で,恣意の入り込む余地が小さく,10年程度の短期的な予測でかつ傾向が単純であれば十分な精度をもつこと,などです。詳細については,「事業計画の策定」に示します。

 ただし,基本計画では,認可申請ほど説明責任が問われない(説明よりも実際どうなるかのイメージを描ききることが大切)こともあるので,さまざまな手法を駆使して多角的に検討することも一つの方法です。まさに腕のみせどころであります。

2)事業計画の改善について

 事業計画は,水源取水量から財政計画の全てに適用されます。

 しかし,フェイルセーフの考え方をとれば,水源確保の計画では需要に対して水源を多めに見繕ったほうが安全です。逆に,財政計画では,需要を供給よりも小さめに見繕ったほうがよいはずです。

 残念ながら,目的に応じて複数の計画値を設定し,安全率を適正に設定することは,特に認可申請などでは認められません。水源取水量については,約10%程度まで割増が認められる(浄水ロスとして)程度です。従って,計画を策定する際には,この安全率のとり方に常に配慮しなければなりません。

 事業計画として計算する項目は以下のとおりです。

  1. 目標年度の設定
  2. 計画給水区域の設定
  3. 行政区域内人口,給水区域内人口,給水人口の推計
  4. 有収水量の算定(できれば用途別に)
  5. 各率(有効率,有収率,負荷率)

 このほか,世帯数(料金の算定),人口移動(認可申請での社会増減人口に用いる場合がある),渇水時の需要構造などを検討する場合もあります。

【備考】


(3)水源の確保

 水源の確保は水道事業の根幹をなす要件の一つであり,最重要条件の一つです。このため,自己水源の取水実績,広域水道事業からの受水契約などについて整理して水源の状況を明らかにし,需要の推移と比較してバランスに注意しながら,自己水源の拡充,用水供給事業からの受水計画を明らかにします。

 なお,水源の確保については,井戸の場合は揚水量の算定,表流水の場合は水利権の確保,広域水道からの受水の場合は供給の同意が必要です。また,水源水質の悪化が著しい場合に水源を放棄することもあるので,水源水質についてもおおむね確認しておくことです。

1)新規井戸水源の場合

 試掘井から得られる取水可能水量の情報を入手します。さく井を担当した業者などに問い合わせるとより正確な情報が入手できます。新規井の水質はチェックし忘れやすいので注意しましょう。

2)既存井戸水源の場合

 現在の取水量,さく井時の取水可能水量データ,及び維持管理担当者の意見を収集します。水質データは入手しやすいのですが,理想的には3ヵ年程度の変遷を把握しなければなりません。

3)新規表流水水源の場合

 水利権を得ている場合は,その水利権の規定に従います。ただし,最低でも四季の水質と,その特徴を検討しておくことが必要です。水利権を有しない小水源からの協議取水の場合は,取水可能水量の推定が重要です。この場合はかならず,地域の古老の話を聞き,水源の枯渇に配慮しなければならなりません。

4)受水の場合

 契約どおりに設計してよいが,用水供給事業者の水源の安全性については一応チェックしておくこと。特に,水源がその受水しかない場合などは注意が必要です。

【備考】


(4)浄水計画

 ここでいう浄水(施設)計画とは,水源計画において確保した水量に対し,十分な水質を保障するための方法に関する計画を指します。このためには,水源水質の検証,浄水施設の検討,そして検査体制の確立などが必要となります。

 浄水場を新設する場合は,原水水質のデータを1年分以上整理したうえで,原水の状況に応じた浄水方法を選定します。そのうえで高度浄水などの特殊な処理方法が必要と判断した場合は,1年程度の実証実験を行うことが理想です。

 また,水質検査の必要項目が増えてきているため,県ごとに策定される水質管理基本計画に則り,水質検査室などの確保などについても検討することが必要でしょう。

 浄水計画(浄水施設計画)の検討項目は以下のとおり。

  1. 原水水質の想定
  2. 原水水質問題の解決(浄水)
  3. 実証実験(可能な場合)
  4. 浄水処理施設設計
  5. 水質管理計画(水質検査体制)

【備考】


(5)送・配水施設計画

 水道システムとは,究極的には,「水源と需要者を直結するシステム」であり,この,「直結」の部分を担うのが送配水システムです。

 「送・配水施設計画」では,配水施設の現況を整理しその問題点を明らかにするとともに,事業計画で検討した需要の増加に対応して,どの施設の改善・新設を行うことが効率的かを検討し,いくつかのケース比較を交えながら施設の具体的な更新・新設案をまとめます。

 配水の安定化をめざした配水池容量の確保,老朽管の更新,ブロック化の導入など,送配水施設に関連する条件に対応することが必要です。また,地震や渇水など,非常時における方策についても基本計画策定時,すなわち平時にとりまとめておく必要があります。

 送・配水施設計画の検討項目として,以下のような手順を提案します。

1)需要の分布の想定

 需要者の分布を,現況の把握と将来の仮定に基づき設定。市レベルの計画であれば,町丁単位で事業計画の需要を配分すると,現況と計画の双方を関連付けられる。

2)地形の分析

 水は高い地点から低い地点に流れる。よって,効率的に配水できるような施設の配置を考えるためには,給水区域の地形をよく観察することが必要である。(もちろん,文書にできない高度な経験が必要である。)

3)要求配水圧力の算定

 配水圧力は高い方が使い勝手がよく,遠くまで配水できる。しかし,配水圧力は低い方がエネルギーロスが低く,また漏水が少ない。この相互背反を克服するために,必要なところには高い圧力を,そうでないところには必要最小限の圧力を与えることが必要である。このためには,都市計画などを調査し,都市部などには5F程度の圧力を,建物の高さ制限のある地域にはそれなりの水圧を設定することが有効と考えられる。

4)配水施設の配置

 既存施設の能力を精査し,需要の増える可能性の高い地域にはそれを見越した中核施設を,逆に能力が中途半端な施設に対しては廃止の勧告を行う。

5)配水ブロックの設定

 配水のブロックシステムとは,配水の制御のため,幹線と配水網を分離し,その接点に制御を想定した施設を設定したシステムである。ブロック化まで行かなくても,配水制御については配慮した幹線網の設置を図る。

6)配水管網の計算

 管網計算により,これまでに仮定したシステムの確実性を確認し,不全な部位の改善の検討を行う。管網計算では,時間最大時,火災時のほか,時間最大の1.5〜2倍程度の時間係数を与えた場合,管網の要所が使用不可になった場合,などを検討しておく。

【備考】


(6)維持管理・事業計画

 維持管理・事業計画の策定では,議会や組合などとの折衝が必要です。基本計画の窓口では決定しかねる項目を多く含むため,十分な折衝を顧客が図れるよう,丁寧な素案と根回しの時間を設定することが望ましいといえるでしょう。

 基本計画の範囲では,基本的な方針とそれに必要な費用などの概算が作業範囲となります。事業計画の策定にあたっては,収支の概算案,事業の年次割りを提示することです。

 また,危機管理への対応や,今後増加が予想される情報開示請求への対応,また新たな取り組みとしての民間委託などについても考慮すべきです。


(7)特徴ある基本計画

 基本計画は比較的自由度が高いため,各事業体がかかえる様々な問題点について検証する作業を柔軟に盛り込むことができます。技術者としても,日ごろ学んだ最新の水道界の動きや,新技術など,さまざまな提案やアイデアを盛り込む余地がある点で,楽しい(その分もちろん責任は重いですし勉強が必要ですが)ところです。

 実際に,追加的検討として,私が受けた範囲で要望があった範囲だけでも以下のような例があります。まずは十分なヒアリングによって要望を余すところなく把握することが重要でしょう。

  • 歴史資料の収集整理
  • 追加的需給計画
  • 上位水源計画への波及
  • 老朽度診断,機能診断,耐震診断,災害対策計画
  • 経営診断,経営改善
  • 有効率向上計画の設定
  • ブロック化計画
  • 浄水場の更新計画
  • 当面発生する全事業の洗い直し

【参考】


参照


目次

基本計画
水道事業の基本計画について。


備考・出典


更新履歴

  • 120809 新様式に転換


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