水道に関連する政策目標等をまとめました。
【参考】
水道事業基盤強化方策検討会
平成28年に中間報告が出された厚生労働省の検討会。厚生労働省HPに掲載されてます。
水道施設の老朽化・耐震性の不足、職員の減少・高齢化、経営の赤字基調や資産の見積もり不足に対し、以下の事項を基盤強化方策に盛り込むべきと提言しています。
1.国、都道府県、水道事業者(市町村等の地方公共団体)の責務の整理
○国:水道の持続性を高める方策を講ずる
○都道府県:同上 + 水道事業者間の連携強化等、経営基盤強化策を講ずる
○水道事業者:水道を維持し、将来世代に確実に引き継ぐ
2.経営基盤強化
○広域連携の推進
○官民連携の推進
○都道府県営水道の位置付け明確化
3.水道施設の更新・耐震化、規模の適正化
○アセットマネジメントの推進
○認可権者(国、都道府県)の働きかけの強化による効率的な施設投資の推進
○給水区域の縮小等への対応
4.水道料金の適正化の促進
○水道料金(「低廉」)の前提条件の明確化
○資産維持費の取扱い適正化の推進
○需要者とのコミュニケーションの充実
5.管路維持困難地域について
○管路以外による給水方式の水質管理等に関する調査研究を実施すべき
6.その他
○水質の維持・向上
○地球温暖化対策(省エネルギ−)
○災害時の事業者間連携に引き続き取り組むべき
○地下水利用専用水道については、設置者との公共サービスの負担の分担に関する十分な意見交換等が重要
水道基本問題検討会
平成13年度の水道法改正のバックボーンになった検討会の諮問結果。厚生労働省HPに掲載されてます。
基本方針は3点(成熟した市民社会への対応(需要者の視点),自由な経済活動を基調とする経済社会への対応(自己責任原則),健全な水循環への対応),これを受けた基本的対応方法を,以下の5点に整理されています。
- 「シビル・ミニマム」の確立,
- 関係者の役割分担
- 水質
- 安定供給
- 料金
【備考】
水道ビジョン
水道ビジョンについては別に項目を設けましたので、そちらをご覧ください。
水道ビジョン
水道分野での調査研究
検討会が中間報告をとりまとめたとの記事が水道産業新聞8/28等で掲載されました。今後の水道分野の研究開発の基本指針となるもので,座長は国包先生が担当されます。新聞記事の転載ですが,一覧しておくことにしましょう。
●水道の経営・運営形態の見直し等による水道事業の技術・経営基盤の強化
- 水道事業全般に関わる政策的研究
- 事業連携と広域化
- 事業及び施設のダウンサイジングとその効果
- 民間活力導入の利点と課題
- 施設更新計画など
- 経済学的視点を取り入れた研究
- 経済的評価=施設更新・管理における企業の関わり
- 環境影響に関する費用対効果の評価など
- 新技術利用による管理運営の一層の合理化に関する研究
- ITを活用した需要管理・料金徴収・サービス
- GISを利用した施設管理・状況把握
●水道水源の保全から給水栓に至る漢での各種対策を講じることによる水道水質の向上
- 水道水質の安全性確保に資する研究
- 微生物・化学物質による水質汚染防止対策
- マルチバリアーを考慮した浄水処理システム
- 配水管網の管理
- 水循環の健全性を考慮した水管理・流域管理に関する研究
- 流域での水道・下水道・河川等の水質水量情報データベースの構築等
- 水道水質基準に関する研究とリスクコミュニケーション
●災審対策讐の充実による安定的な水の供給
- 危機管理技術の先導的研究
- 小規模水道や末端施設等の施設・設備の整備,管理に関する研究
- 資機材の安全性に関する研究
- データベースの構築に関する研究
●水道分野における環境・省エネルギー対策の強化
- 水道分野における環境。省エネルギー等の斑策に関する研究
- 環境負荷の低減化
- 浄水汚泥・薬品洗浄排水処理の下水道との連携
- ゼロエミッションなど
- 水道分野における新エネルギーの利用に関する研究べ水道施設における再生可能エネルギーの利用
●国民の水道に対する多様的かつ高度化した二ーズヘの適切な対応
- 利用者の視点からの水道サービスの評価方法(利用者二ーズの把握とその評価方法)
- 利用者の視点にたった情報提供のあり方(リスクコミュニケーションを合む構報提供)
●国際協力等を通じた水道分野の国際貢献〉
- 水道に関連する国際的な課題に関する研究(水供給にかかる多国間協力のあり方)
- 途上国における適正技術に関する研究
●技術開発や機構の解明に資する研究
- 浄水処理技術に関する研究
- 生物活性炭のメカニズム,スローダウン洗浄
- ランゲリア指数の改善
- 大容量コスト低減化膜処理技術
- 代替消毒剤
- 浄水場排水の濃縮技術
●健療科学や複数の分野にわたる先駆的研究
- 健康科学等の視点から水をとらえる研究
- 工業・医学・衛生を含めた水と健康
- おいしい水
- バイオアッセイ
- 家庭内クロスメディア汚染
- 浄水器など
- 多分野と連携した先端的研究
- 廃活性炭・交換膜等の廃棄物の有効利用
- バイオ・ナノ・IT・人工衛星等最新ツールの利用
- 技術と社会科学との協調
- アオコや内分泌撹乱物質の水道水源における挙動や分析,菌の検索など複数の分野にまたがる研究
【備考】
以前あった施策
現在,水道整備に関する基本方針については審議中です。そろそろ目標年度に近づいてきましたが,ふれっしゅ水道計画とその根拠となった生活審議会答申について紹介します。
(1)生活環境審議会答申「今後の水道の質的向上のための方策について」
厚生省は,大臣の諮問機関である生活環境審議会に平成2年9月に諮問を行い,同年11月に本答申を得ました。答申では,水道利用者の要求を的確に把握し,これに配慮した高水準の水道を目指すべきであるとし,今後の水道整備の基本的考え方としていつでもどこでも安全でおいしい水を供給できるよう,
- すべての国民が利用可能な水道
- 安定性の高い水道
- 安全な水道
という3つの面から施策の具体化を図ることが必要であるとされ,この3つの面の各々について次のような具体的方策が示されました。
1)すべての国民が利用可能な水道
- 農山漁村を中心とした簡易水道設備の整備
- 水道未普及地域解消事業の推進
- 維持管理の共同化,遠方監視,制御の導入
- 水道加入の指導
2)安定性の高い水道
- 節水型機器の普及等の節水対策
- 雑用水道の整備
- ダムの建設
- 余剰が生じている農業用水や工業用水の転用
- 海水淡水化の検討
- 広域的な水道整備
- 原水調整池,相互融通施設
- 基幹施設の耐震化
- 主要な施設の多系統化
- 配水管路のブロック化
- 大口径管等の大深度地下への敷設
- 配水池容量の増加
- 異なる水道事業間の連絡
- (災害)復旧用資機材の備蓄
- 水道施設の計画的更新と機能向上
- 老朽管更新の推進
- 施設機能の把握手法の開発
3)安全な水道
- 水質基準の充実
- 水質検査体制の整備
- 水源の水質保全対策の実施
- 活性炭,オゾン,生物処理等高度処理施設の整備
- 膜法等の新しい浄水処理技術の開発
- 直結給水システムの導入
4)併せて講ずべき事項
- 水道利用者とのコミュニケーションの充実
- 人材の養成,確保
- 調査研究体制の充実
- 井戸水等の供給施設における衛生確保
- 国際的な交流の推進
【備考】
今みると,やはり拡張と安全性の確保の視点に重きを置いているような印象があります。この審議会の後,バブルの崩壊から10年に及ぶ景気交替など,急速に世情が変化しましたので,次回の基本方針はこれとはずいぶんことなったものになるのではないかと思います。
(2)21世紀に向けた水道整備の長期目標(ふれっしゅ水道10カ年計画)
生活環境審議会の答申では,今後の水道施設の整備は,長期的視点から十分な計画性をもって取り組むことが必要であり,国として,長期的な目標を明らかにすべきとされていました。これを受けて,厚生省(当時)は,「21世紀に向けた水道整備の長期目標」を定めました。これは,10年間の主要な水道施設整備の目標と事業量を定めたもので,下水道や廃棄物処理施設のような法律に基づく計画とは異なり,事業費は定められてませんでした。
なお,この長期目標の内容を5つの言葉で要約し,親しみ易く表現するために,各頭文字をとってふれっしゅ水道という呼称が制定され,水道週間などのイベントでよく使われました。
- ふ・・・普及率向上で国民皆水道達成 〜普及率100%の向上,水源の確保など
- れ・・・レベルアップで高いサービスの水道〜直結給水の拡大,処理水質改善など
- っ・・・強くて地震・渇水に負けない水道 〜基幹施設の耐震化など
- し・・・信頼できる安全でおいしい水道 〜水源水質対策,浄水処理対策など
- ゅ・・・ゆとりのある安定した水道 〜余裕を持った水源の確保,配水池容量の増大,配水基地の適正配置と水の相互融通など
【備考】
うら「ふれっしゅ」って知ってます?くすくす。
(3)指定工事店制度
指定工事店制度とは,水道工事の指定代理店を設け,ある程度の独占を容認するかわりに,緊急時の協力や,夜間での交替の対応などを求めるシステムで,水道法に指定をしてよい旨の規定があります。
しかし自由化の波のもとで新規参入を阻害するものだとの指摘を受け,指定工事店制度が修正されて給水工事主任技術者制度が創設されました。
- 指定工事店制度(リンク切れ)@【首相官邸】
規制緩和の推進に関する意見より。
この対応に対して,行革委員会はこれを評価するとの最終意見を出しています。
【備考】
廃止された,と書いていたのは不正確でした。ごめんなさい。
(4)MAC21/高度MAC21計画
膜ろ過技術は,従来沈殿・ろ過で行ってきた固液分離をより確実に行える技術開発を目的にしたもので,医療や工業技術分野で実績がありました。
日本における水道への膜処理技術の導入には水道技術研究センターの研究プロジェクトである,MAC21(H3〜),高度処理MAC21(H6〜)の,2つの官学民合同プロジェクトが大きな役割を果たしました。そこで,これらの計画の概要と成果について簡単にまとめます。
1)背景
- MAC21
我国の水道事業は小規模なものが多く,技術者の確保が困難である。また,水源が地下水から表流水へと移行し,水質管理体制の脆弱さが問題である。よって,維持管理が容易で,省力的,衛生的な技術を開発することとなった。
- 新MAC21
水質基準の改正(平成4年12月)をうけ,高度化された基準を満たすことのできる浄水方法について研究を進めてきたところであり,近年の有害化学物質やTHM,病原性微生物の問題に対処できる技術として,オゾンや活性炭,生物処理,との組合わせをみた高度MACに期待するところ大であった。
2)体制
厚生省化学技術研究費補助金を受け,旧水道浄水プロセス協会が核となり,平成3年からMAC21として3年間実施された。水道界における始めての本格的な官・学・産の大型プロジェクトとして研究開発が進められ,画期的な成果を得た。引続いて,平成6年度から3ヶ年にわたって,様々な水質的問題に対応できる技術に膜ろ過を発展させられる可能性を探るため,高度処理MACを推進した。
3)目的
- MAC21
沈殿・ろ過の代替としての可能性を検討。十分な成果を納め,国庫補助対象となる実用技術として確立。
- 新MAC21
1)NFにより沈殿・ろ過で除けないが分子的には比較的大きい,色度,農薬,THM,2−MIB,陰イオン界面活性剤などの除去技術の開発。 2)オゾン,活性炭などとMF/UFを組合わせ,従来の高度浄水よりも効率を高める。前記に加えアンモニア性窒素など。 3)浄水場の排水処理技術に応用。
4)成果
厚生省としては十分な成果を得た,100年来の技術の突破(ブレークスルー)を果せる技術と判断している。水道の特性としては新技術の採用にあたって慎重にならざるを得ないが,このなかで,膜ろ過が従来のシステムに替って使用できる可能性を持っていることを証明したものとして評価できる。また,膜の性能や性状は,目的によって今後いろいろなものが開発される可能性がある。
5)留意点
導入にあたって,原水の性状を十分に把握し,それに応じてどういう処理システムがよいかということを各事業体ごとに検討してゆくことが必要。特に,ナノろ過の場合は回収率の設定に十分な吟味が必要。実証実験を推奨。
【備考】
水道公論のMAC21計画の総括記事をもとに内容を整理しました。現在の(財)水道技術研究センター事業です。膜のページから移動。
|